公共事業雇用:完全雇用への道(2)

MACROECONOMICS

公共事業雇用:完全雇用への道(2) ステファニー・ケルトン他

訳者からの注意

本Webページは、L・ランダル・レイ、フラビア・ダンタス、スコット・フルワイラー、パヴリーナ・R・チェルネワ、ステファニー・A・ケルトンの2018年4月における共著論文「Public Service Employment: a path to full employment」を日本語訳したものである。この論文はPDF文書1枚に収められているが、その日本語訳をWebページとして作成するにあたっては3つに分けた。その分、各ページの容量は少なく、容易にアクセスができるようにしてある。一方で読者諸君にはページ間を移動するというお手数をおかけする。その点、ご容赦願いたい。

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公共事業雇用:完全雇用への道(概要)

公共事業雇用:完全雇用への道(1)

目次

第3節:公共事業雇用プログラムによる経済効果のシミュレーション

本節では、働きたいと思っている法定生産年齢の人に高賃金かつ給付金のある仕事を提供する、普遍的な公共事業雇用(Public Service Employment, PSE)プログラムの経済効果をシミュレーションする。これは真の完全雇用を実現すると同時に、民間部門の賃金や労働条件を改善することができる。さらに、民間部門の生産物に対する需要を増加させ、その結果、民間部門の雇用を増加させることになる。ここでは、経済政策のシミュレーションによく使われる有名なフェアモデル(Fair 1994, 2004, 2018 参照)を使用している。仮定と方法論についてはフルワイラー(Fullwiler)が近刊する著書で議論されている。29

PSEプログラムのシミュレーション

ここでシミュレーションされるPSEプログラムの基本は以下の通りだ。

•PSE労働者に支払われる賃金は時給15ドル。

•PSEプログラムの労働者は週に平均32時間働く。

•材料やその他の購入に使われる人件費以外の費用は、人件費より25%多い。これらは政府による企業部門からの購入に当てられる。

•健康保険や保育などに関する給付金を充実させるため、人件費の20%に相当する費用が加わる。仮定において、この給付パッケージは、企業部門からの購入と家計部門への移転支出との間で均等に分割される。

•PSE従業員(訳注:PSEによって雇用されている労働者)は、給与税の従業員分を支払っている。

•PSEからの所得の33%が連邦所得税の対象となる。PSE賃金は、多くの世帯(特に所得を得る者が1人以上いる世帯)で、少なくともその賃金の一部が課税対象となるほど十分な額だ。ここでの意図は、どれだけ課税されるかを過小評価するのは間違いだということだ。

PSEの労働力の構成は、2017年第3四半期の労働力状況について第2節で述べた知見と類似しており、2018年第1四半期から仕事が提供された場合、約1,500万人が仕事を受け入れる可能性があると結論付けている。本節で採用した方法論は、フェアモデルを使用する目的で多少簡略化している。しかし、潜在PSE労働者の総数は似ている。30

PSE労働者のプールには、 (1)さらに長時間働きたいパートタイム労働者、(2)BLSが定義する失業者、(3)労働力から外れているが働きたい者という3つの分類がある。それぞれの分類には「下限値」と「上限値」がある(ここでは、第2節での人口調査の分類を使って、これらがどのように定義されているかを類推している)。6つのシナリオ(パートタイム・失業者・非労働力、それぞれの下限・上限)については、フェアモデル内の他の内生変数(雇用や生産など)を説明変数として用いて確率式を生成した。この時、これらの確率式は、経済状況に応じてPSE労働者の総数を設定できるようにするために、各期間ごとにフェアモデルのシミュレーション内で決定される6つの追加の内生変数を提供する。31

フェアモデルでは、民間部門の賃金は全レベルの労働者を代表しており、賃金外給付も全て含まれている。PSE賃金は現行の最低賃金よりも大幅に高いため、民間部門の賃金(これはモデル内の政府部門や金融部門の賃金を駆動する)が上昇すると予想される。本シミュレーションでは、PSEの賃金・給付金と、最低の賃金・給付金との差額の20%が、フェアモデルの平均賃金に追加されると仮定している。この仮定は、PSEの賃金・給付金による民間企業のコストへの影響を、より大きく見積もった結果が出るように設計されている。32

シミュレーションされるPSEプログラムは、連邦レベル及び州レベルの支出を削減すると期待される。したがって、以下の仮定もシミュレーションに組み込まれている。

•PSE従業員の中には、PSEプログラムがない場合に失業給付を受ける人がいる。フェアモデルでは、失業給付は確率式のいずれかによって決定される内生変数である。ここでのシミュレーションでは、確率式によって決定された利益がその後、外生的に25%削減される。

•PSE従業員が給付金の一環として健康保険に加入するので、当然、メディケイドの支出は減少する。メディケイドに対する連邦政府の支出は、PSE従業員に支払われる総所得の5%分(つまり給付パッケージへの総支出の4分の1)削減すると仮定される。州レベルの支出は、PSE従業員が獲得した総所得の1%分(給付金パッケージへの総支出の20分の1)減少すると仮定される。

•通常、PSE従業員は給付金資格を失くすほど十分な所得を得るので、勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit, EITC)の支出は必ず減少する。連邦政府によるEITCへの移転支出は、PSE従業員の総所得の5%分減少し、一方、州のそれはPSE従業員の総所得の1%分減少すると仮定される。

シミュレーション結果を扱う次の節では、現行の実際の支出と比較して、上記の仮定がメディケイドとEITCについてどのようなことを示唆するかを議論している。

シミュレーション結果と議論

本シミュレーションではPSEプログラムが、2018年第1四半期に20%の規模で始まり、四半期ごとに20%ずつ強化される、段階的なプロセスで実施されると仮定している。2019年第1四半期にPSEプログラムは最盛期を迎える。PSEは、現行のフェアモデルの予測期間、2018年第1四半期から2027年第4四半期までの10年間でシミュレーションされる。

構造的マクロ計量モデルによって生成された予測は通常、確率式の係数によって設定された「トレンド」経路に比較的早く収斂するので、フェアモデルの基準予測は主に、PSEプログラムが追加された場合に予測経路がどのように変化するかの比較として関心の対象となる。同様に、PSEプログラムによる予測の経路は、フェアモデルの基準値と比べた場合にどうかという関心しか持たれない。したがって本節では、フェアモデルの基準予測に対する、PSEプログラムを組み込んだシミュレーションの偏差のみを報告する。33

ここには、上限値と下限値、二種類のPSEのシミュレーション結果がある。これらは、仕事の提供を受け入れる人の数についての代替的な仮定を考慮して、マクロ経済変数と政府予算がPSEプログラムにどのように相互作用するかを示している。34

図3.1にPSE従業員数を示す。プログラムが本格化してからは、2022年の1,540万人(図では「高」の棒グラフ)で上限値のピークを迎える。下限値(図では「低」)も2022年の1,160万人でピークを迎える。興味深いことに、上限値と下限値の大きさは第2節で推定されたものと似ている。2022年以降のPSE従業員数は、上限値では約700万人、下限値では約50万人とそれぞれピークを下回りながら安定的に推移する。

図3.1 PSE従業員数 出典:著者が計算
図3.2 PSEプログラムから得られる追加の実質GDP(2017年第4四半期、単位:10億ドル) 出典:著者が計算

図3.2は、基準シミュレーションと比較した場合の、PSEプログラムが毎年生み出した追加の実質GDP(単位:10億ドル)を、本稿の2種類のシミュレーションごとに示している。基準となる四半期は2017年第4四半期(つまり実質GDPと名目GDPが等しい四半期)に設定されている。よって図3.2の量はインフレ調整され、2017年第4四半期におけるドルで示されている。実質GDPへの追加は2022~24年がピークで、下限値で年平均約4,720億ドル、上限値で年平均約5,930億ドルとなる。その後、実質GDP効果は緩やかに低下する。2026~27年までには、下限値シミュレーションで年平均4,400億ドル、上限値シミュレーションで年平均5,430億ドルとなる。35

ここで注目すべきは、基準シミュレーションは基本的には過去のトレンドに回帰するが、FRBの金利ルールがマクロ経済のパフォーマンスに対して反循環的に設定されると考えると、トレンドに向かう緩やかな回帰であっても、代わりにトレンド経路の周辺で小さな揺れが生じるということだ。それ故、基準シミュレーションの実質GDP成長率は2018~21年に微減し、その後2022~25年に微増し、2026~27年にまた微減する。シミュレーションの結果、図3.1と図3.2の通り、基準成長率の3つのシフト全てに対して反循環的に、PSEプログラムが作動する(ただし、実質GDPによる効果は短いラグを置いて発生するため、基準シミュレーションにおける2026~27年の最終的な成長率低下が、同時期におけるPSE労働者数の増加による実質GDP増加を引き起こすことはない)。

これらの結果は、雇用保障を扱った過去数十年の文献と整合する。PSEプログラムはマクロ経済の安定化を達成するために、(経済を減速させるために、緊縮政策によって民間企業から解雇された)失業者のバッファーストック(以下「失業バッファーストック」)を、被雇用者のバッファーストック(以下「雇用バッファーストック」)に置き換える。この安定化は、民間企業の雇用・支出の増減と対照的に、政府予算が増減する(PSEプログラムが小さくなれば減り、大きくなれば増える)ことで達成される。現行の政策慣行では、インフレ目標を達成するため、被雇用者に対する失業者バッファーストックの割合を一定に保っているのに対し、PSEプログラムでは、雇用バッファーストックを変動させることで真の完全雇用を維持している。

図3.3 民間部門による追加の雇用創出 出典:著者が計算

図3.3は、PSEプログラムの追加的刺激によって民間部門で創出された追加的雇用を示したものだ。民間部門の追加的雇用のピークは、下限値シミュレーションでは約330万人、上限値シミュレーションでは420万人となっている。シミュレーション期間終了時にはPSEプログラムが完全に導入されてから9年間が経過しているため、民間雇用は依然として295万人から365万人の範囲にあり、フェアモデルの基準シミュレーションよりも多い。追加の雇用創出も、基準シミュレーションにおける実質GDP成長率の緩やかな変化とは反対にPSEプログラムが変動する、という図3.1や図3.2と同様のパターンに従っている。

図3.4は、PSEシミュレーションの年間インフレ率と基準シミュレーションの年間インフレ率との差で、PSEのインフレ効果を示している。36PSEプログラムからの刺激ではインフレ率は少ししか上がらない。どちらのシミュレーションにおいても、上昇のピークは2020年である。最も上がっているのは上限値シミュレーションであり、2020年にその年の基準インフレ率を0.74%上回っている。下限値シミュレーションのピークは2020年であり、基準インフレ率を0.63%上回っている。2027年末までには、同プログラムによる最初の景気刺激の影響が過去のものとなり、PSEプログラムのインフレへの影響は0.11(低)%または0.09(高)%に低下し、マクロ経済的には取るに足らないものとなる。

つまり、貧困水準以上の賃金・給付金を支払い、人件費以外の費用を十分に支払い、(PSE賃金が経済の事実上の最低賃金となるため)効果的最低賃金の上昇分の20%を企業部門の賃金に転嫁し、ピーク時に1,160万人から1,540万人を雇用するというこのPSEプログラムの刺激効果は、ピーク時でさえ僅か0.63~0.74%(つまり1%の4分の3以下)のインフレ効果しか発生させない。より重要なのは、このインフレ率の上昇がその後、マクロ経済的に重要でないレベルに低下するということだ。このことは、雇用保障を扱った文献における、このようなプログラムのインフレ効果は実施初期段階で控えめならば最小限にとどまるだろう、という中核的な主張と整合している。

図3.4 PSEプログラムのインフレ的影響(基準値との差、単位:%) 出典:著者が計算
図3.5 PSEプログラムへの総直接支出(名目、単位:10億ドル) 注:失業給付、メディケイド、EITCでの支出削減額の試算は含まれていない。 出典:著者が計算

要するに、図3.2と図3.3に示したPSEプログラムのマクロ経済効果は大きく、ピーク時のインフレ効果は非常に緩やかなのだ。したがって、ピーク時のインフレ的影響をマクロ経済的に無視できる規模へ減らすために、重要で望ましいマクロ経済的効果をいくつか犠牲にしてでも必ずFRBが対応すべきかどうかは、少し疑問となって来る。このようなインフレ的影響は、 (1)雇用保障を扱った過去数十年間の文献が主張してきたような、プログラムの段階的導入による一過性の効果と、(2)基準シミュレーションの初期段階におけるマクロ経済の減速に対抗するPSEプログラムの刺激効果という、インフレの恒久的な上昇とは無関係な2つの別々の原因から生じていることを考えると、特に無視できるものと言える。37

図3.6 PSEプログラムへの総直接支出がGDPに占める割合 注:失業給付、メディケイド、EITCでの支出削減額の試算は含まれていない。 出典:著者が計算

図3.5は、PSEプログラムへの直接支出を名目値で示したものだ(この金額はインフレ調整されていないため、図3.2の実質GDPへの影響と直接比較することはできない)。2020から2027年までのPSEプログラムの年間平均直接費は、下限値シミュレーションで4090億ドル、上限値シミュレーションで5,430億ドルとなっている。38フェアモデルの基準予測は景気循環を考慮していないため(前述したように、基準シミュレーションにおける緩やかな経済成長率の変動は極めて小さく、一般的な景気循環とは似ても似つかない)、マクロ経済を安定させるPSEプログラムの能力をより明確に示すことができない一方、図3.1と図3.5は、この側面でのプログラムの論理について見識を提供している。PSE労働者数及びプログラムの直接費は、仕事を希望する全ての人が仕事を少なくとも一つ獲得するまで増加する。これを超える支出増はない。景気が悪くなればなるほど、PSE労働者数が増えて直接支出が増える。その逆もまた然りだ。これは、景気が良くなる(悪くなる)とPSEプログラムの規模・直接支出が下がる(上がる)ことを意味する。

図3.6は、図3.5と同じ情報を対GDP比で示したものだ。2019~27年の間、PSEへの直接支出の対GDP比は、下限値シミュレーションで1.81%から1.33%に、上限値シミュレーションで2.41%から1.74%に減少している。39シミュレーション全体として、PSEへの直接支出がGDPに占める割合は控えめである。

PSEへの直接支出と、プログラムの財政収支効果(訳注:政府の純支出額に対する影響)との差は、プログラムが実施されたかった場合よりも、PSE労働者が納税し、EITCによる移転支出と失業給付金と必要なメディケイドの支出が減少した結果である。さらに、PSEプログラムが経済を改善した結果、民間部門雇用と企業の利益が増加するならば、これらはさらに社会福祉及びセーフティーネットに関わる支出を削減し、税収を増加させることになる。その結果、財政収支効果は、直接支出額そのものに比べて大幅に低くなる。

様々な財政収支効果を説明するために、EITCとメディケイドに関わる連邦政府支出が削減される、という仮定を考えてみよう。シミュレーションでは、PSE労働者に支払われる所得(給付金を含まない)の5%に相当する額(これは総給付パッケージの25%に相当する)が各支出項目から外生的に削減されると想定している。したがって、2020~27年におけるEITCとメディケイドへの支出の年平均削減額は、下限値シナリオで約140億ドル、上限値シナリオでは約190億ドルとなる。

図3.7 PSEプログラムにおける、財政収支効果と、金利を引いた財政収支効果(名目値の平均、単位:10億ドル) 注:失業給付、メディケイド、EITCでの支出削減額の試算を含む。 出典:著者が計算

一方、2016年のEITCへの連邦政府支出は740億ドル、メディケイドへの支出は3490億ドルとなっている。パーセントで見ると、EITCとメディケイドの支出はそれぞれ、上限値シナリオで約26%と5%、下限値シナリオで19%と4%減少する。どちらかと言えば、これらの数値は、(貧困水準を超えるよう設定された賃金と医療給付を備えた)PSEプログラムが、特にメディケイドにおいて達成できる支出節約を(おそらく大幅に)過小評価しているように思われる。

図3.7は、PSEプログラムの財政収支効果を名目ドルで示したものであり、2018~22年と2023~27年という2つの期間についてそれぞれ平均値を算出している。また、政府による債務元利払いを基準シミュレーションから差し引いた財政収支効果も示している。通常、前者を財政赤字への影響、後者をプライマリー財政赤字への影響という。しかしPSEプログラムは、(例えば)国防費と同じように、必ずしも政府が赤字である必要はない。だがフェアモデルの基準シミュレーションでは既に政府が赤字になっているため、さらなる歳入なしでPSEプログラムを追加すると、この赤字に加算される。一方、もし基準財政が黒字であれば、図3.7に示した追加の債務元利払いの一部または全部が発生しない。 40図3.7のように、PSEプログラムの結果として生じる追加の債務元利払いを、追加の債務元利払いを行わない場合の財政収支効果から分離させることで、より明確なイメージを得ることができる。

下限値シナリオにおける、債務元利払いがない場合の財政収支効果は、最初の5年間で年平均2,600億ドル、最後の5年間で年平均2,350億ドルとなる。債務元利払いを含める場合、下限値シミュレーションにおける財政収支効果は、終始平均して3,000億ドルを下回ったままとなる。上限値シミュレーションにおける、債務元利払いがない場合の財政収支効果は、最初の5年間で年平均3,540億ドル、最後の5年間で年平均3,260億ドルとなる。債務元利払いを含める場合、上限値シミュレーションにおける財政収支効果は、最初の5年間で3780億ドル、次の5年間で4,100億ドルと緩やかに上昇する。全体的として財政収支効果は、図3.5におけるPSEプログラムへの直接支出よりも大幅に低い(図3.5と図3.7は、視覚的に比較しやすいように縦軸が同じ縮尺で描かれていることに注目してほしい)。

図3.8 PSEプログラムにおける、財政収支効果と、金利を引いた財政収支効果(対GDP比の平均) 注:失業給付、メディケイド、EITCでの支出削減額の試算を含む。 出典:著者が計算

多くの人がPSEプログラムの名目的コストに注目しているが、GDPに対する財政収支効果の割合は、経済規模と比較してプログラムのコストが実際にどれほどあるかを示している。したがって図 3.8 は、図3.7と同様の情報を対GDP比で示したものである。ここでも、債務元利払いを含めても財政収支効果は軽微だ。下限値シミュレーションにおける金利を差し引いた財政収支効果は、平均して最初の5年間でGDPの1.13%、最後の5年間でGDPの0.83%となっている。上限値シミュレーションでは、平均して最初の5年間で1.53%、次の5年間で1.13%となっている。これらは債務元利払いを含めると、それぞれ1.62%、1.44%と緩やかに上昇する。なお、比較しやすいように図3.8の縦軸の縮尺は図3.6と同じにしてある。ここでも、両シミュレーションにおけるPSEプログラムの実際の財政収支効果は直接支出を大幅に下回っている。

さらに、以下のうち1つ以上が当てはまる場合、図3.7と図3.8に示した財政収支効果が大幅に過大評価される可能性があると、理解しておくことが重要だ。

1)政府はPSEプログラム実施以前に赤字ではなかった。

2)メディケイドやEITCによる相殺が、これらのシミュレーションにおける極めて控えめな仮定よりも大きい。

3)政府が、これらのシミュレーションには組み込まれていない追加の歳出削減や税金でプログラムのコストを相殺している。

4)国債の金利は、フェアモデルの基準予測を下回る水準で推移している。(この時、政府による債務元利払いの増加は遥かに小さいか、無視できる程度であり、財政収支効果を表すのにより適切な指標は、図3.7と図3.8における、利払いを差し引いた財政収支効果となる。)

フェアモデルの基準シミュレーションにおけるFRBの目標が、米議会予算局や連邦公開市場委員会(FOMC)が公表した予測を上回っていることを考慮すると、4つのうち(2)である可能性が最も高く、(4)の可能性が次に高い。

図3.9 PSEプログラムによる州財政への影響(名目、単位:10億ドル) 出典:著者が計算

最後に言うと、PSEプログラムは、所得とマクロ経済活動(ひいては税収)を向上させながら、移転支出とメディケイドの支出を削減することで、州レベルの支出を節約するという副次的な利点を持っている。図3.9は、州レベルの節約を名目値でシミュレーションしたものだ。この結果は、2022~27年における州財政の節約額が平均して、350億ドル(下限値)から530億ドル(上限値)の間で維持される可能性があると示している。なお、連邦政府の予算へのフィードバック効果と同様に、これは過小評価かもしれない。例えば、2016年の州レベルのメディケイド支出は2,040億ドルだったが、ここでの4つのシミュレーション全てにおいて、(州のメディケイド支出が、PSEによる給付金の総支出の5%分だけ減少すると仮定されているので、)年間28億ドルから40億ドルしか減少しないと推定されている。また、PSEプログラムの規模は反循環的に変動するため、不況期には州レベルの支出が大きくなるはずだ。これによってアメリカの各州は、大不況後の経済を刺激しようとするFRBと連邦政府の努力に反して、均衡財政の要求(50州のうち49州の憲法典に書かれている)を満たすための予算削減と増税を行いにくくなるだろう。

結論

これらのシミュレーションは、大規模で寛容なPSEプログラムがマクロ経済的に大きな利益をもたらす一方で、それによる直接的コストと財政収支効果が非常に小さいことを示唆している。シミュレーション結果を包括的にまとめると以下の通りになる。

・シミュレーションによると、PSEプログラムが生活賃金を支払い、医療給付を提供し、1,100万人から1,600万人の労働者を雇用しても、年間の財政収支効果の対GDP比は0.83%から1.62%の間(図3.8で示されている全ての平均値の範囲)でとどまると示唆されている。財政収支効果が最終的にこの範囲内に収まるかどうかは、上限値と下限値と比べてどれだけプログラムが大きいか、PSEプログラムがない場合にFRBが金利をどれくらいに設定するか、PSEプログラムがある場合にFRBがそれにどのように反応するか、プログラムからのマクロ経済的なフィードバックがどれだけ移転支出やメディケイドの支出を削減して税収を増加させるか、その結果としての全体的な連邦政府の財政がどうなるか、これら複数の条件に依存する。

・PSEプログラムが完全な形で実施されれば、プログラムの規模にもよるが、2017年の年間実質(つまりインフレ調整後)GDPを4,450億〜5,600億ドル引き上げることができる。

・PSEプログラムの刺激効果の結果、プログラムの規模に応じて、民間部門に追加の恒久的な雇用が295万〜365万人生まれる可能性がある。

・PSEプログラムによるインフレへの影響は、プログラムが段階的に実施されているので、初期に緩やかに上昇するのに続き、マクロ経済的には取るに足らないものとなる。さらに、過去の景気循環を対象に、極めて小規模なプログラムのシミュレーションを行ったところ、PSEプログラムのインフレ効果が、(まだ非常に控えめではあるものの、)景気循環とは逆に作用すると示唆された。よってPSEプログラムは、物価安定という政策目標と整合する。

・州レベルの支出は、いくつかのPSEによる効果の結果として節約されるだろう。第一に、PSEプログラムの刺激効果は、税収を増加させ、移転支出を削減する。第二に、刺激効果とは無関係に、PSEプログラムによって失業給付、EITC関係の移転支出、メディケイドの支出が削減される。第三に、これらの便益は景気循環に逆らって作用するため、州が均衡財政の要求を満たすために増税や支出削減(通常これらは不況を悪化させる)をする必要性を減らす。

補論3.1

FRBの金利ルールをオンにして実行されたシミュレーシ ョンでは(フェアモデルにおけるFRBの反応関数の詳細についてはフェアの著作 [Fair 2018, 106-08, 397 及び Fair ,2001] を参照)、FRBが下限値シミュレーションでの目標金利を、基準シミュレーション金利2.77%を0.8%上回る値まで上昇させる(ピーク時の2021年)。後に、下限値シミュレーションの終了時の2026~27年で目標金利が4.6%に(そして基準シミュレーション金利が4%近くに)なるため、その差は0.64%まで緩やかに減少していく。上限値シミュレーションのFRB目標金利は、ピーク時の2021年に3.77%(基準シミュレーションより1%高い)となる。これはシミュレーション終了時には約4.75%(つまり、上限値シミュレーションのFRB目標金利と基準シミュレーション金利の差が約0.8%まで縮まる)になる。FRB目標金利の上昇は、フェアモデルの金利反応関数が経済の強さとインフレ率の上昇に対して「逆に傾く」ためであり、これらはいずれも段階的なPSEプログラムの導入初期の数年以内にピークを迎える。

これらのシミュレーションでは年間実質GDP増加額の平均が3,100億~3,950億ドル(FRBのルールが適用されていないシミュレーションに比べて約1,350億~1,650億ドル少ない)となっているため、FRB目標金利の上昇は経済を減速させる。景気の低迷により、PSE労働者数はFRBのルールが無いシミュレーションに比べてピーク時で約60万人から90万人多くなる。同様に、FRBルールがあると、2021年から2027年までの民間雇用数は、基準シミュレー ションよりも平均して215 万人から275 万人多い(これは、FRBルールが無いシミュレーショ ンよりも約90万~110万人少ない)。

PSE労働者数の増加を伴った経済低迷は、FRBルールが適用されていないシミュレーションと比較して、PSEプログラムによる財政収支効果が大きくなったことを意味する。これを対GDP比で測ると平均的に、債務元利払いを含まない場合で0.13~0.19%、債務元利払いを含む場合で0.25~0.6%大きくなる。(債務元利払いを含めた場合の差が大きくなるのは、FRB目標金利が名目GDP成長率を上回って債務元利払いの増加が加速するためである。しかし、基準シミュレーションにおけるFRBの目標は、既にFOMCが現在予測しているものよりも大きくなっていることを忘れてはならない。)

最終的に、景気を減速させるFRBの行為の影響は、PSEプログラムによるピーク時のインフレ率への影響が0.14~0.17%減少することに繋がり、2023年には0.1%以下に低下し、2025年にはマイナスになる(つまり、FRBルールを導入したシミュレーションよりも導入していないシミュレーションの方が、この時点でのインフレへの影響は小さい)。これらのインフレ率低下は常にマクロ経済的には取るに足らないものだ。言い換えれば、そもそもマクロ経済的に取るに足らないこのようなインフレ率を、FRBが僅かに減少させることによって、経済へのコストとして、シミュレーショ ンの最後の8年間を通じた平均で、年間実質がGDP1,300 億~1,600億ドル、民間雇用が90万~110 万人失われてしまうのだ。すなわち、PSEプログラムは、過去に行われたようなFRBの反応を考慮したとしても、実質GDPと民間雇用の面でマクロ経済に大きな純利益をもたらす一方、FRBの利上げによるピーク時の一時的なインフレ率の僅かな低下に、マクロ経済的なコストに見合うだけの利益があるかどうかは百歩譲っても疑問である。

さらに、財政への影響に関して言うと、FRBの反応は(1)民間部門の仕事からPSEへより多くの労働者を追いやり、(2)財政赤字の際には政府の債務元利払いを引き上げることで、PSEプログラムのコストを大幅に引き上げる。もしFRBがそれに反応して利上げを行わなければ、PSEプログラムはコストを大幅に削減すると同時に、マクロ経済的により大きな影響を与える可能性がある。この結果は、PSEプログラムが単独で十分に機能していれば景気循環の中でインフレが安定化することを示した、過去の景気循環を対象としたシミュレーション結果(Fullwiler 2007, 2013)と一致する。フルワイラーの確率シミュレーション(Fullwiler 2007)はさらに、景気循環の反応と労働者の生産性を仮定して細分化された様々なPSEプログラムが、過去のデータから導き出された様々なショックに対応し、インフレと実質GDPに安定化効果をもたらすことを示している。

第4節 設計・業務・実施

公共事業雇用(Public Service Employment, PSE)プログラムは、仕事の選択肢を公的に提供する政策だ。これは、生活賃金で働く準備と意欲のある全ての人のために、自発的な雇用機会を要求に応じて供給するプログラムだ。資金提供は恒久的に連邦政府が行い、管理は地域的に行われる。本プログラムは、まず第一に雇用プログラムであるが、公共の目的を推進し、労働条件・人々の日常生活・経済全体を改善することで社会変革をもたらす可能性を秘めている。

ここでは、本プログラムを運用するための青写真を提示する。プログラムの核となる目的と期待される効果を提示し、制度的構造・資金調達の仕組み・プロジェクトの設計と運営を提案する。

公共事業プログラムの目的

中核となる政策目標

・労働市場の状況、人種、性別、肌の色、信条に関係なく、働きたいと願う全ての法定生産年齢の個人へ、要求に応じて真っ当な仕事を真っ当な賃金で提供する。

その他の目標

・国連人権宣言やフランクリン・D・ルーズベルト大統領の経済権利章典(訳注:いわゆる「第二権利章典」)で概説されているように、仕事に対する基本的人権を保障する。

・雇用のセーフティネットを実施する。

・最も直接的に失業者へ雇用機会を創出する。

・様々なスキルを持った人に適した仕事の機会を提供する。

・公共目的に奉仕する。

・景気循環を安定化させるための「雇用バッファーストック」として運用する。

・経済全体にとって効果的な最低賃金を確立する。

・バッファーストック(緩衝在庫)メカニズムと最低賃金の特徴を利用して、物価安定性を高める。

・大量失業による経済的・社会的・政治的コストに対する予防政策として奉仕する。

・都市の荒廃や環境問題など、他の社会問題に対処する手段として利用する。

・国民及び彼らのニーズを公共政策の第一目標に置き、彼らに力を与え、支援する。

主なプログラムの特徴

・永続的だが自発的:本プログラムは永続的なものだ。社会的に有益な仕事を行う、地域共同体での雇用機会を提供する。

・生活賃金:本プログラムの仕事は、時給15ドルに加えて給付金を提供する。

・地域的:本プログラムは、労働者と契約し、人がいるところに仕事を生み出す。

・ターゲットを絞っている:設計上、本プログラムは、失業者数が最も多い地域で最も多くの雇用を創出する。

・資金提供は連邦政府、管理は地域的:本プログラムは、雇用のセーフティネットを担い、持続可能性を保つことを狙って連邦政府によって資金提供されているが、主に地方自治体・非営利団体・社会的企業・協同組合によって管理される。

・「付属的」プログラム:本プログラムは、既存の所得支援プログラムに取って代わらずに、個人に代替的選択肢を提供することを目的としている。例えば人々は、失業給付を受給し続けるか、プログラムに加入するか、好きな方を選べる。もし、前者を選択したが失業給付金が使い切ってしまった後、既存の民間・公共部門の仕事を見つけるのが難しい場合は、PSEプログラムに登録するという選択肢もある。

・ワークフェアプログラムではない:PSEプログラムは、既存の給付金(失業給付・メディケア・補助的栄養支援プログラムなど)の対価として働くことを要求しない。

・共同体雇用銀行(Community Jobs Bank):本プログラムは様々な雇用の場としての役割を果たす。従来の公共部門の仕事に取って代わらないプログラムになっている。労働省による別個のプログラムとして認可され、必要があれば順次雇用機会を提供する。

・セーフティネットと過渡的雇用プログラム:これはセーフティーネットとして、基準的な賃金と給付金で働きたいと願う全ての人に役立つ。過渡的な仕事の選択肢として、他の民間・公共部門での仕事への足がかりになるよう設計される。

・PSEの仕事を人々に適合させる:能力の面から人々の「現状」に合わせ、その人の教育水準やスキルに応じて適切かつ有益な仕事の機会を万人に提供する。

・勤務日の選択肢を提供する:PSEプログラムは、介護をしている人・学生・退職者などのために、必要に応じてパートタイムや柔軟な勤務形態を提供する。

・万人のための雇用: 働くことを望む個人や集団を排除しない。設計は、退役軍人・危機に瀕した(訳注:非行に走ったり虐待を受けている)若者・前科者・障がい者といった、特殊な集団のニーズに敏感でなければならない。

・人々への投資:訓練・教育・職業研修の機会を提供する。

・共同体への投資:ニーズが満たされていない共同体と働くことができる失業者とを、マッチングすることを狙う。

・公共の利益への投資:本プログラムは、雇用の提供と雇用の収益性を分けて考えている。狭い意味での利益を優先するのではなく、地域共同体のニーズに応えるためにプロジェクトが作られる。

・環境への投資:環境問題への対処に焦点を当てる。

期待される便益

・完全雇用:本プログラムは、非自発的失業をなくし、それに伴う人間の苦難や社会的苦痛を大幅に軽減する。

・反貧困:時給15ドルという正真正銘の生活賃金を確立することによって、プログラムの内外を問わず、労働者の所得を底上げする(反貧困的影響の推定については第2節を参照)。

・悪い仕事の代替:「悪い」労働慣行と「悪い」仕事を無くすのに役立つ。公的雇用が真っ当な仕事を真っ当な賃金で提供しているのであれば、困難な労働条件で貧困水準の賃金を支払う雇用主は、労働者を保持するために、PSEの賃金と条件を超えなければならないだろう。

・インフレの安定化:本プログラムはインフレ抑制やマクロ経済安定化の優れたツールとして機能する。現在、失業者のプールは反循環に変動している。PSEプログラムは、景気に合わせて反循環的に拡大・縮小を繰り返し、決して個人や経済が深刻な雇用喪失と失業に苦しむことを許さない。よって、産業予備軍(reserve army of the unemployed)ではなく、ある目的のために雇用された個人のプールを利用して、経済成長と物価安定化を継続させる。

・所得分配の改善:所得分配を以下3つの方法で達成する。1)PSEプログラムが下位所得を上位所得より素早く引き上げる。2)PSEプログラムが労働所得を支え、労働者と資本家の間の所得分配を改善する。3)PSEプログラムが、取り残された人々の所得と雇用機会を支援することで、労働者同士の所得分配を改善する(Tcherneva 2011 参照)。

・労働市場の悪循環を断ち切る:所得分配の底辺にいる人々が経験する失業と所得の悪循環を断ち切る。

・治療:本プログラムは、以前に失業した人やその配偶者、子供たちの健康を心身共に改善し、子供たちの教育水準や労働市場の見通しを向上させる(Tcherneva 2017)。

・予防:労働市場の状況が全体的に改善されることで、自殺者や死亡者、いわゆる「絶望の死」が減少する(Tcherneva 2017)。

・経済的・社会的・環境的便益:ホームレス・犯罪の常習・経済犯罪を減らし、PSEプログラムを通じて提供される公共の財・サービスの利用可能性を高め、環境・人々・共同体に投資する(Tcherneva 2017)。

プログラムの設計と実施

上記の特徴と目標は、PSEの核となるものだ。プログラムの目標と具体的な設計の特徴は、労働市場やその他の経済状況において観察された構造的・制度的な変化に合わせて、繰り返し査定され、適応される。確かに、この青写真は、あらゆる状況に適応する唯一の政策を提供しないし、そもそもできない。どのようなPSEプログラムも、採用を検討する国における文化・発展度合い・制度・マクロ経済の文脈に適したものでなければならない。

短期 vs 長期:それぞれの設計と運用

今日実施されているようなPSEプログラムは、長期的に進化するプログラムではない。

もし今日、PSEプログラムが開始されたとしたら、大量の隠れた失業者と、真っ当かつ高賃金の仕事への強い潜在的需要がある状況下では、PSE労働者は1,500万人まで拡大する可能性がある。ひとたびプログラムが立ち上がれば、民間の雇用状況が改善され、経済全体の健全性が向上するだろう。その時点でプログラムの規模は縮小するだろう。本プログラムがしばらく続いた後に失業する人へ雇用を提供するよりも、今日において働く準備と意欲があり、働くことができる人全員を雇用する方が難しい。

第1節で述べた労働力参加率の低下といった、現在の労働市場の問題を考えると、本プログラムは初期段階で、労働力の10%に相当する1,500万人の労働者を、PSEに吸収することが必要となる可能性がある。これと同類の大規模な雇用プログラム(例:アルゼンチンの失業世帯主プログラム「プラン・ジェフ」)の経験は、本プログラムが民間部門の活動を大きく後押しし、強力なGDP成長と民間雇用を生み出すことを示唆している。第3節のマクロ経済シミュレーションは、PSEプログラムがGDP成長率を押し上げ、民間部門の新規雇用を何百万人も増加させることを示し、この予想を裏付けるものである。

雇用バッファーストックとして機能するPSEプログラムを導入すれば、失業バッファーストックよりも高いレベルの非インフレ的な生産と雇用を維持して、経済を運営することができる。

長期的に見れば、本プログラムは小規模に落ち着く可能性が高い。その他のプログラム、例えば転職支援やマクロ経済運営政策(減税や政府支出の増加など)は、必要に応じてPSE労働者のプールをさらに縮小するのに役立つ。

本プログラムは景気循環(不況や好景気)のあらゆる段階で完全雇用を創出することで反循環的に運営されているため、総雇用は安定し、民間部門の雇用数が現在のように激しく変動することはない。つまり、ひとたび本プログラムが導入されれば、景気変動は緩和され、PSEの雇用も安定することになる。

準備対応:共同体雇用銀行

本プログラムは、総合的な準備対応として設計される。事業の実施機関と失業者の登録手順を設定し、 必要な仕事を供給し、即座に失業者へ供給できる「商品棚に置かれているような(on-the-shelf)」仕事を保管する「共同体雇用銀行」を設計するためには、計画期間が必要となる。

PSEプログラムは、既存の制度的インフラの多くを利用して、地域の雇用不足への詳細な準備対応として設計できる。これは、プログラムへの新規参加者を迅速に受け入れ、彼らが代わりの雇用を見つけた場合にはそれを邪魔することなく彼らを解放することができる、仕事や職場の蓄えを維持する。労働者を吸収したり、放出したりする能力は、PSEプログラム特有の課題ではない。実際、民間・非営利・公共部門のあらゆる労働市場の領域で、新規参入者や離職者を継続的に雇用している。

さらに、比較的短期間での雇用創出には、背伸びをする必要はありません。これまでの経験によると、大規模な雇用プログラム(ニューディールやアルゼンチンのプラン・ジェフなど)の立ち上げには数ヶ月を要することが分かっている。ひとたび本プログラムが実施されれば、プログラムへの新規参加者のために仕事を見つけるのは容易になる。最初の実験と共に、長期的にプログラムのパフォーマンスを向上させるための継続的な評価が必要だ。

予防的特徴

本プログラムは、反循環的に変動することで民間部門の雇用を補完する(民間雇用が縮小すると拡大し、民間雇用が拡大すると縮小する)ため、大量失業が現在のように拡大・急加速しないよう設計されている。よってこれは、最初の民間企業による大量解雇から生まれる伝染効果を抑制し、予防的な機能を果たす。これは景気循環の揺れを排除しないが、減衰させるだろう。

行政機関、事業実施機関

労働省

PSEプログラムは、現在の失業給付のように労働省の管轄下に置かれることになる。失業給付と同様、各州がプログラムの運営に参加する。議会が労働省を通じてPSEプログラムのための資金を充当することになる。労働省の予算は、景気循環の中で仕事を望む人を雇うのに従って、反循環的に変動することになる。

労働省は、PSEプログラムの下で認可されたプロジェクトの種類に関する、一般的なガイドラインを提供する。自治体は査定を実施し、地域共同体のニーズや利用可能な資源の目録を作成する。総合雇用センター(後述)は、労働省・州・自治体と協議の上、共同体雇用銀行を創造する。

労働省は、特定の機関への資金提供に加えて、公共目的に資する事業のために共同体・非営利団体・ベンチャー社会的企業の自発的雇用に資金提供することを示す、「提案の要請」を行う。助成金は、(1)活動の有用性、(2)失業者の雇用機会の創出、(3)既存の労働者をがないこと、これらが見込まれる事業に支給される。

州と地方自治体

州や自治体がプログラムの運営を支援する。彼らは、資金の支出に関わるだけでなく、地域レベルでの設計と実施にも責任を持つ。前述したように、彼らは共同体による査定を実施し、共同体雇用銀行を設計する。

総合雇用センター

PSEプログラムは、行政インフラの面から制度を作り直す必要はない。地方の失業事業所は、既に地方の雇用センターとして再構築され、総合雇用センターや米国雇用センターとも呼ばれている。彼らは既に、給付金(失業給付)から就職支援まで、失業者に多くのサービスを提供している。職業紹介、職業訓練、大学入学資格検定試験の修了、履歴書作成、英語、数学、読解力強化の支援や、ストレス管理や資金管理といったマンツーマンのサービスを提供している。

一つの可能性として、これらの失業事業所を、雇用機会も提供する真の雇用事業所に転換することが考えられる。失業者と雇用主をマッチングさせようとする試みは、慢性的な仕事不足によって、ほとんど効果が無くなる。労働者にとって、機関からの支援のいくつかがその他の方法より良いことはあるが、容易に利用可能な雇用機会が豊富にない場合、失業事務所を通過することは大抵、ストレスや懲罰的な経験になり得る。

これらの機関は、必要とされるPSEの雇用機会を提供しながら、訓練・教育や、民間部門の雇用機会への移行を継続的に支援することで、十分に機能する総合雇用センターになり得る。PSEプログラムの下で彼らは本質的に、関心を持つ個人とPSEの仕事とを結ぶ、共同体雇用銀行のハブとなる。

公共機関、非政府組織(NGO)、社会的企業

公共機関、非政府組織(NGO)、社会的企業が事業実施組織だ。前述したように、プログラムの設計段階で、需要に応じて雇用機会を供給する組織を、各共同体で多数設定することができる。実施後も時間をかけて、その他の組織を追加することができる。これらの組織での雇用機会は、共同体雇用銀行と共に考案される。失業者が総合雇用センターに登録すると、これらの組織の仕事に就くことになる。

事業実施機関の設定は、PSEプログラムの綱領に基づく、労働省が提示する一般的なガイドラインに則って行われる。失業者が行う職種も、仕事を提供する組織も、「公共目的 」の定義に左右される。

職種

PSEプログラムは、(1)自然環境への配慮、(2)共同体への配慮、(3)人々への配慮、これらに適した特定の共同体のニーズを満たすのに役立つ。

環境への配慮

我々は、フランクリン・D・ルーズベルトの植樹軍(FDR’s Tree Army)の復活と、あらゆる共同体でPSE雇用を創出する、21世紀版の市民保全部隊(Civilian Conservation Corps, CCC)の創設を提案する。どの共同体も環境へのニーズが高いので、ニューディール期のような野営を使ったCCCモデルは、我々の提案するものではない。代わりに、労働者の居住地域への雇用創出を提案する。

共同体雇用銀行は、自然環境の観察・復旧、公共投資プログラムに関わる仕事を用意することになる。

それは以下のようなものだ。土壌流出、洪水防止、環境調査、種子の観察、公園の維持管理・更新、外来種の除去、アメリカの「食の砂漠」問題を解決するための持続可能な農業の実践、 地域の漁業の支援、地域支援型農業(Community Supported Agriculture, CSA)、共同体のための屋上庭園、植樹、火災などの防災対策、住宅の耐候化、堆肥の生産。

共同体への配慮

共同体を再構築するには内部から行うのが最善だ。全米の多くの共同体では、都市の衰退、貧困、犯罪が発生している。PSEプログラムは、共同体が再生し、より強靭なものになるために、既存の最善策を活用して共同体内の人的資本を動員する。

それは以下のような仕事だ。空き家の処理、資材の回収、家屋の修繕、その他小規模なインフラ投資。校庭、都市農園、共同作業場(co-working space)、太陽光パネル、工具倉庫、授業を行う教室、劇場、講演会の設置。運動場、歩行者専用エリア、自転車専用レーンの整備。車の相乗り、廃棄物の再資源化・再利用、廃棄物収集プログラムの企画。

人々への配慮

本プロジェクトには、高齢者保護、放課後プログラム、子供・新米の母親・危機に瀕した若者・退役軍人・元受刑者・障がい者のための特別プログラムなどが含まれる。PSEプログラムの利点の一つは、これらの集団に属す求職者にも仕事の機会を提供することだ。言い換えれば、本プログラムは彼らに主体性を与えるのだ。例えば、危機に瀕した若者たちは、自分たちの利益を目的とした放課後活動の実施に参加する。退役軍人は、様々な退役軍人支援プログラムのために働き、その恩恵を受けることができる。

それは以下のような仕事だ。学校や地域の図書館などでの放課後活動の企画。放課後プログラムの促進。教師・コーチ・訪問医師・司書を応用した、新しいスキル・職務の習得支援。学校での栄養調査や、若い母親のための健康啓発プログラムの企画。

PSEプログラムはまた、都市部の学校、生活協同組合、放課後プログラム、成人のスキル習得支援、持続可能な農業の実習、そして共同体に配慮した上記全ての仕事を組織し、都市部の教師・芸術家や職人・製造業者・発明家における新世代を訓練する。

これらの作業は全て、今日既に何らかの形で行われている。そして、どれも人手不足だ。不足しているのは人手と、それを雇うための予算だ。そこで必要になるのがPSEプログラムの機能だ。言い換えれば、本プログラムは、これらの分野で既に存在する最善策の恩恵を受け、これらの公共財の生産と人的資本への投資を単に大規模化することができる。

本プログラムの仕事は地域で管理され、地域のニーズを満たし、実勢賃金法を含む地域の労働慣行に反しないよう支援を行う。本プログラムが労働者を雇うことによって、15ドル以上の時給を貰う労働者(実勢賃金法の対象)が移動することはない。

結論

本節は、PSEプログラムの運用にとっての一つの青写真を提供する。設計の指針となる原則は、(1)PSEは生活賃金での労働を希望する全ての人が利用できるプログラムでなければならない、(2)その仕事は労働者や共同体にとって有意義でなければならない、(3)予算は景気循環による雇用の変動に柔軟に対応できるものでなければならない、ということである。

失業とは、ほとんど目に見えないものなので、通常、失業が生み出す莫大な社会的コストは認識されない。これらのコストは既に社会が負担しており、実際には膨大で、一見難解な負の外部性を生み出す。したがって、失業者ために仕事を供給することは、価値ある目標だ。しかし、ここで提供される青写真は、PSEプログラムが失業者・その家族・地域社会の生活、そして経済全体を改善し得る複数の道筋を示唆している。

補論4.1 プロジェクトの例

例1

市が、空き地や放置された公共空間の清掃、インフラの復旧、資材の再利用などに、様々なスキルの男女を動員する。肉体労働は難しいが基本的なコンピュータスキルを持つ障がい者は、データベースを作成し、清掃作業の記録、再利用資材の目録作成、オフィスでの後方支援などを行う。危機に瀕している若者は公園の清掃を手伝い、スケート場やバスケットボールコートの建設・塗装・造園などを熟練労働者と共に行い技術を習得する。

例2

かつての炭鉱コミュニティは、都市の衰退、大量失業、健康問題の高い発生率を被っていた。PSEプログラムは、既存の最善策に基づいて、自然環境の復元のための包括的なプロジェクトを企画する。生態系を回復させ、土壌流出を食い止め、失われた重要な野生生物を呼び戻すのに適切な種類の樹木を植えるために、労働者を雇用する。自治体では、食料不安・水質・栄養失調の調査を企画する。彼らは包括的な共同体庭園プログラムを立ち上げる。

例3

各地域の地域支援型農業(CSA)が、市内全域で共同体庭園を企画・設置する。彼らは地元住民を雇い、庭園の設置や運営を行う。生産物は、地元住民の間で分配されたり、地元の農産物市場で販売されたり、全国の低所得者の家庭に無料で届けられたりする。CSAは、共同体庭園の建設に加え、温室やアクアポニックスの運営、持続可能な農業に関する老若男女を対象とした授業を行うための人材を雇用する。CSAは、フルタイム及びパートタイム労働の機会を提供し、柔軟な働き方を提案することができる。

例4

地域の非営利環境機関は、公共の山道を整備・保護・拡大してきた長い経験を持っている。この機関は、山道の管理や整備(現地で許可されている場合)のために、PSE参加者を短期間で吸収する。また、この非営利団体は、地域に生息する外来種の除去にも取り組んでいる。外来種の除去には土壌流出防止の取り組みが含まれており、スタッフの配置が必要となる。また、ウナギやニシンの観察プログラムも実施する。

様々なスキルを持った人々が採用され、様々な業務に従事する。適切なスキルを持つ労働者は、必要に応じて地図の作成、外来種の記録、調査の実施を支援することができる。またこの非営利団体は、老若男女を対象とした講演やセミナー、環境保全の体験学習なども行う。育児や高齢者介護を行なっている人のために、柔軟な働き方を提供する。

例5

地域のアーティスト集団が、画家・俳優・音楽家・劇場の技術者を雇い、365日いつでも作品を発表している。彼らは、学校の補助プログラムやサマーキャンプを企画・運営し、障がいを持つ青少年や特殊なニーズを持つ若者のために無料でアート・音楽・言語学習の授業を提供する。地元の学校と協力して、芸術をより豊かにするプログラムを提供する。

例6

地元の公立学校は「共同体雇用銀行」に登録し、PSE労働者を配置することができる、多くのプロジェクトやプログラムを提供する。その中には、学校の運動場の拡張・塗り替え・耐候化などに関するものもある。他にも、放課後活動の種類を増やしてほしいという要望もある。その多くのプロジェクトは、能力の低い生徒の支援、計画立案、授業中の活動において、教師の助力を必要とする。

その仕事は様々なスキルや経験を必要とする。就職難の大学生といった、労働市場への新規参入者は、PSEプログラムを通じて、教師の補助としてその仕事に参加する。彼らは貴重な研修を受け、実地経験を積む。以前まで家事に専念するため在宅していた大人は、新たな放課後プログラムの運営を支援する。失業した建設労働者は、インフラ整備や耐候化事業を支援する。

補論4.2 世界中で行われた類似のプログラムからの教訓

世界には数え切れないほど、教訓を学ぶことができる事例として活用できる直接雇用プログラムが存在する。多くの場合、これらは規模と期間が限定されたプログラムだ。本節は、ある3つのプログラムについて簡単に見ていく。一つは、アルゼンチンにおいて、2000年代初頭の深刻な経済危機の中で実施されたものだ。これは景気回復するにつれて段階的に廃止された。もう一つは、インドにおいて、過去10年に渡って恒久的なプログラムとして実施されてきたものだ。そしてもう一つは、アメリカにおいて、大恐慌の雇用危機に対処するために作られたニューディールの雇用プログラムだ。しかしこれも、アルゼンチン同様、景気回復後に廃止された。

インド:全国農村雇用保障法(National Rural Employment Guarantee Act, NREGA)

前述のように我々は、好況期でも不況期でも常にあらゆる人に仕事を提供する、恒久的で普遍的なプログラムを提案している。それはインドのプログラムに近い。NREGAは、各世帯に年間100日以上の有給労働を保障している。このプログラムは、有給労働の権利を法制化したものだ。その権利は、国連人権宣言に触発されて、多くの国の憲法に書き込まれている。しかしながら、署名国はまだその責任を果たしておらず、NREGAでさえ、PSEプログラムが提案しているように、個人ではなく世帯に対してしか労働を保障していない。

インドの社会・経済状況は米国と大きく異なるが、NREGAの意義は、有給雇用プログラムのため、権利に基づく枠組みを作り、求職者に仕事を提供する法的責任を政府に課したことにある。

NREGAは、PSEプログラムと同様に、要求に応じて雇用を保障するだけでなく、固有の生産的な公共資産(井戸・池・道路・公園など)を共同体に創出し、必要な公共サービス(治水・園芸・洪水防止・干ばつ防止・その他の環境事業など)を提供することを目的としている。NREGAに明文化された環境面でのメリットとは別に、NREGAプログラムは貧困層の男女間の賃金格差を縮小し、底辺の民間企業の賃金を引き上げるのに貢献してきた。

アルゼンチン:失業世帯主プログラム (プラン・ジェフ・イ・ジェファス, Jefes y Jefas)

アルゼンチンは、自国が2001年に深刻な経済危機に瀕した時、プラン・ジェフ・イ・ジェファスを作成した。これは、失業者(男性あるいは女性)の世帯主に最低賃金で1日4時間の労働を保障した。このプログラムは普遍的な雇用保障ではなかったが、PSEのような米国で開発された提案(最後の雇用主)を明確に模倣した点で意義があった。41

このプログラムは200万人の労働者(人口の5%、労働力人口の13%)を急速に吸収したが、景気回復とともに縮小した。このプログラムは景気回復に伴い中止となったが、これまでに述べたPSEプログラムの主な特徴を示した。それは反循環的な特徴を示し(プログラムの賃金は基本賃金としての役割を果たした)、貴重かつ公的な財・サービスを生産し、労働者・その家族・共同体に多大なプラスの影響を与えた。

アメリカ:ニューディール

大恐慌期アメリカのニューディールは、様々な意味で大規模直接雇用のモデルを考案した。雇用プログラムの最大の担い手である公共事業促進局(Works Progress Administration, WPA)には、推定1,300万人の労働者が参加した。テイラー(Taylor, 2009)が主張するようにWPAは、労働者に所得を提供しただけでなく、戦争遂行や戦後の好景気を支えるインフラも構築したことから評価できる。実際、テイラー(Taylor, 2009)は、WPAが米国を20世紀に連れて行ったと主張している。

アメリカのニューディールは4ヶ月間稼働した。プラン・ジェフ・イ・ジェファスは半年間稼働した。これらのプログラムは、我々が提案しているPSEプログラムと規模(国民の人口に対する比率)が似ていた。

PSEプログラムは、他の3つの直接雇用モデルとは大きく異なるが、それぞれについての研究は、我々の提案に大きな影響を与えた。

補論4.3 米国におけるPSEプログラムへの支持の高まり

何十年にも渡って雇用保障(job guarantee, JG)の研究が行われてきたにもかかわらず、この制度は最近になって有力紙で紹介されたばかりだ。今日、これは主流の議論に上り、多くの議員候補者が雇用保障を政策に掲げて出馬するのを促した。最近の世論調査によると、米国民は圧倒的にこれを支持している。ある世論調査会社(サイバス・アナリティクス)は、「これまでの世論調査で最も人気のある話題の一つ」(McElwee, McAuliffe, and Green 2018)と呼んだ。

また、雇用保障は若年層や低所得層、特に有色人種の有権者に人気があると判明した。その上、富裕層の民主党支持者よりも低所得者層の共和党支持者に人気がある。さらに、バラク・オバマに投票した後にドナルド・トランプに投票した人の58%が支持した。データ・フォー・プログレス社が州レベルでの雇用保障の支持率をモデル化した結果(図A4.1)、ウェストバージニア州62%、インディアナ州61%、カンザス州67%、ミシシッピ州72%、ジョージア州71%というように、「深い赤(訳注:共和党支持者が多い地域)」の州でも支持率が高いと分かった。これらの結果は意外に思われるかもしれないが、それらの州は失業率や貧困率が平均よりも高い州でもあり、雇用保障が大きな影響を与える可能性がある。

一般的に米国民は、失業問題を解決するのは政府の責任だと考えている。米国人の政策的選好に関する最近の調査(表A4.1)によると、一般国民の68%は、政府が支援して「仕事を望む全ての人が仕事を見つけられるようにすべきだ」と考えており、一般国民の53%は、最後の手段として政府自身が失業者に仕事を提供するという考えを支持している(Page, Bartels, and Seawright 2013, 57)。

2013年のギャラップ社の世論調査(Jones 2013)によると、失業者を雇用する政府の雇用プログラムや、雇用創出に関する法律がさらに強く支持(回答者の72〜77%が支持)されている(表A4.2)。

要するに、米国人の大多数は、政府の雇用プログラムだけでなく、最後の雇用主、特に雇用保障を支持しているのだ。雇用保障とは、今まさに実施されるべきアイデアなのだ。

図A4.1 州ごとの雇用保障への支持率(%) 出典:データ・フォー・プログレスの許可を得て転載(センター・フォー・アメリカン・プログレスのデータを使用)。
表A4.1 政府による雇用創出と最後の雇用主政策への支持率 出典:Page, Barrels, and Seawright (2013)
表A4.2 政府の雇用対策と、雇用創出に関する法律への支持率 出典:Jones (2013)

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後注

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29. フルワイラーが近刊する著書は、フェアモデルの利点と考えられる欠点についても論じている。

30. このシミュレーションでの参加者数は、賃金と経済パフォーマンスによってモデル内で内生的に決定される(フルワイラーが近刊する著書を参照)。重要なのは、このプログラムによる相対的に高い賃金(時給15ドル)が民間雇用主へ圧力をかけることによる影響を、シミュレーションに盛り込んでいることだ。この問題については本節でさらに考察する。

31. 本シミュレーションにおけるPSE労働力の数値を生成する確率式の詳細については、フルワイラーが近刊する著書を参照のこと。

32. 本シミュレーションの最低賃金は、全50州の加重平均である8.43ドルだ。シミュレーションでは、最低賃金労働者の10%しか給付金を受け取っておらず、その給付金パッケージは平均してPSEの給付金パッケージの半分であると仮定している。注意してほしいのは、想定される給付金と、最低賃金労働者が給付金を受け取る割合が低いほど、PSEの賃金・給付金が民間部門の賃金に与える影響が大きくなり、民間企業にとってのコストが高くなるということだ。

33. フェアモデルの基準値にはいくつかのマイナーチェンジが行われている。第一に、フェアモデルにおける失業給付は州レベルでのみ支給されるが、ここでの基準値とPSEのシミュレーションでは、失業給付が連邦政府と州で均等に分担される。第二に、フェアモデルにおける連邦政府の債務元利払いは、政府が政府自身に支払う利息を含む総債務元利払いであるのに対し、ここで提供されるシミュレーションでは純債務元利払い、つまり非政府部門への実際の移転支出のみを使用している。第三に、2018-27年の間の外生変数の成長率に関する仮定は、より歴史的な経路に沿ったものにするために、標準の予測から40%削減されている。この例外は輸出と、連邦政府から州政府への移転支出の成長率であり、標準の成長率にとどまっている。第四に、フェアモデルの予測は2025年で終了するため、2025年までの外生変数と人口統計の仮定が単純に2027年まで延長されている。フェアモデルの基準シミュレーションの結果は、連邦準備制度理事会(FRB)と議会予算局(Congressional Budget Office, CBO)のシミュレーションと一致しており、名目GDPは年平均4%、実質GDPは年平均2%の成長率となっている。その結果、フェアモデルの確率式によって設定された連邦準備制度の目標金利は、2025年末までに4%まで上昇し、2027年まではその範囲内、またはそれを僅かに下回る程度で推移する。

34. PSEのシミュレーションでは米連邦準備制度理事会(FRB)の金利ルールが「オフ」になっている。つまり、シミュレーションではPSEプログラムに対するFRBの反応が無いことになる。その代わり、FRBの目標金利は基準シミュレーションの反応関数によって設定された水準を維持しており、2018年の2%から2022年末の3%までゆっくりと上昇し、2025年には約4%まで上昇し、2027年までこの水準を維持する。FRBのルールを「オン」にしたシミュレーションは、フルワイラーの著書(近刊)に報告されている( これらの結果のいくつかは補論3.1に概説されている)。

35. PSEプログラムがこのような基本的に単発的かつ一定の効果を発揮しているのは、10年という予測期間でマクロ経済シミュレーションを行なっているからだ。上述したように、このような基準予測は、モデルに大きな外生的変化を与えることなく、単純にマクロ経済のトレンドへ回帰していく。その代わりに、現実の経済が被るような景気循環をシミュレーションに組み込むと、シミュレーションされたPSEプログラムのマクロ経済効果は、景気に対して遥かに反循環的なものになる。詳しくはフルワイラーの近刊される著書や、彼の過去の著作を参照してほしい(Fullwiler 2007, 2013)。

36. 基準シミュレーションのインフレ率は年平均1.9%となっている。

37. フルワイラー(Fullwiler 近刊の著書, 2013, 2007)が示すように、PSE労働力の反循環的な変動は、マクロ経済政策のための安定したインフレ目標と整合するよう、インフレへ緩やかに反循環的な影響を与える。

38. フルワイラー(Fullwiler 近刊, 2013, 2007)はこのことを説明するために、ここで提案しているよりも遥かに小規模かつ不寛容なPSEプログラムを用いながらも、景気循環のある経済におけるPSEプログラムのシミュレーションを行っている。

39. シミュレーションではPSE労働者の賃金が15ドルで不変と仮定しており、これは図3.6においてPSEへの直接支出の対GDP比が着実に減少するのに寄与している。シミュレーションのどの時点で(生活費等に合わせた調整のために)賃金が上昇しても、図3.6のような結果になる。だがこれは確実な結果ではない。PSEの支出がマクロ経済のパフォーマンスにフィードバック効果をもたらし、これがPSE労働力の規模に影響を与えることを考慮すると、マクロ経済的影響がPSE労働力の大幅な減少をもたらした場合、GDPに占める支出の割合は実際に減少する可能性がある。

40. 財政黒字の基準シミュレーションの場合、どれだけの債務元利払いが発生するかは、(1)基準シミュレーションにおける政府予算規模に対するPSEプログラムの財政収支効果の規模(利払いを差し引いたもの)と、(2)経済成長率に対する政府債務の金利水準に依存する。

41. ミズーリ大学カンザスシティ校の「完全雇用と物価安定のための研究所(the Center for Full Employment and Price Stability)」で開発された、L・ランダル・レイ、マシュー・フォーステイター、パヴリーナ・チェルネワ、ウォーレン・モスラーによる提案に基づく。