公共事業雇用:完全雇用への道(1)

MACROECONOMICS

公共事業雇用:完全雇用への道(1) ステファニー・ケルトン他

訳者からの注意

本Webページは、L・ランダル・レイ、フラビア・ダンタス、スコット・フルワイラー、パヴリーナ・R・チェルネワ、ステファニー・A・ケルトンの2018年4月における共著論文「Public Service Employment: a path to full employment」を日本語訳したものである。この論文はPDF文書1枚に収められているが、その日本語訳をWebページとして作成するにあたっては3つに分けた。その分、各ページの容量は少なく、容易にアクセスができるようにしてある。一方で読者諸君にはページ間を移動するというお手数をおかけする。その点、ご容赦願いたい。

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公共事業雇用:完全雇用への道(概要)

公共事業雇用:完全雇用への道(2)

目次

第1節 現在の労働力の状況:我々は本当に完全雇用に達しているのか

連邦準備制度理事会、多くのメディアの専門家、そしてほとんどの政策立案者は、労働市場が回復したという意見に同意しているようだ。公式失業率は、これまで言われてきた「追求すべき最低値」の下限に達している。そして、過去5年間、コア・インフレと消費者物価指数が連邦公開市場委員会の目標値を下回ったままであったにもかかわらず、FRB内外のエコノミストは、フェデラル・ファンド金利の正常化路線を維持すべきであるとの見解で概ね一致している。

それに異を唱える者は少数派だが、少なくとも一部の人を悩ませる反証が存在している。まず、労働力参加率は危機以前の水準を大きく下回ったままである。また、ほとんどの労働者の賃金は大幅に上がらなかった。さらに、ポール・クルーグマンとラリー・サマーズを含む少数の人々は、アメリカが長期停滞に直面していると警告している。これは、被雇用者でも失業者でもない、労働力参加を辞めた者としてカウントされる盛年男性の数が、増加していることが原因であると考えられている。ある特定の日においては、6人に1人が仕事を持っていなかった。加えて、労働生産性の伸びも、景気回復期でも総じて期待外れの状態が続いている。

これは多くの経済学者を悲観的な結論に導いている。ここまで説明すれば誰であろうと悲観的になってだろう。よって、我々は今後の経済パフォーマンスへの期待値を下げなければならない。今後も、アメリカの黄金時代である戦後直後と比べて大幅に低い成長率が続くだろう。失業率が1960年代の水準に回復することはないだろう。 教育水準やスキルの低い人たちが希望を捨てているため、労働力参加率は下がり続けるだろう。 実質賃金の低迷も続くだろう。我々ができる最善の方法は、希少な仕事の奪い合いを防ぐために移民を強制送還し、おそらく希少な有給の仕事の獲得競争に負けたアメリカ人に手当てを提供することだ。

しかし、本当にこのようにしなければならないのだろうか。失業した労働者がやってくれるかもしれない有益な仕事は、本当に不足しているのだろうか。我々は、インフラ設備の欠陥、閉鎖されたプールや手入れの行き届いていない小道を持つ人手の足りない公園、高齢者と子供たちのニーズが満たされていないこと、浄化作業を必要とする汚染された池や小川、そして修理や断熱材を付ければ恩恵を受けるであろう低所得者層の住宅、これらが見えなくなるほど盲目になってしまったのだろうか。我々は、社会に溢れている不着手の事業に取り組む有給の仕事と、失業者とをマッチングさせる方法を考えられないほど、本当に想像力に欠けているのだろうか。

1930年代、フランクリン・D・ルーズベルト大統領も同様の状況に直面していた。しかし、彼はそれを不変のものとして受け入れようとはしなかった。ルーズベルト政権は、ニューディール計画によって数百万人の雇用を創出し、失業者を雇用し、時代を20世紀という新時代に持っていった。労働者たちは道路や空港、学校などの公共施設の整備、芸術的なパフォーマンス、そして48州についてのガイドブックの発行などに力を発揮した。ニューディールの労働者は、「国を変える使命」として服を縫い、温かい食事を提供し、病人の世話をし、図書館の本を全米の遠隔地の町に届けた(Taylor 2009, 3)。ルーズベルトが1932年4月7日に言っていたように 、「このような不幸な時代は、忘れ去られ組織化されていないが経済力の不可欠な単位の上に成り立つ、計画の構築を求めている。この計画は、上から下ではなく、下から上へと構築され、経済ピラミッドの底辺にいる忘れられた人々にもう一度信頼を置いている」(Taylor 2009, 59)。

我が国の失業者数は1930年代のものとは似ても似つかないが、現在の景気回復期であっても数千万人のアメリカ人が取り残されている。彼らの多くは公式統計に現れず、またあまりにも多くの人が希望を捨てている。薬物依存症関連死が爆発的に増えたことや、いつものように政治への嫌悪感が高まっていることも、その一端であることは間違いない。

本節では、労働市場の状況を「新しい標準(new normal)」として受け入れるべきではない(1930年代のルーズベルトもそう判断した)し、そもそもできないことを明らかにするために、労働市場の状況を考察する。

現在の労働力の状況

オバマ大統領は2010年以降、民間部門の雇用が1,580万人増加したことを受けて、記録上最長の雇用創出を続けて退陣した。実際、公式の失業率は4%台にまで低下しており、今では一般的に「完全雇用」に匹敵している、あるいはそれを上回っているとさえ信じられている。

これらの発展は歓迎すべきことではあるが、労働市場をより詳しく見ると、我々は安心していられなくなる。問題の一つは、公式の失業率の指標に、仕事が欲しいと思っている失業者や、フルタイムで働きたいと思っているパートタイム労働者の多くが含まれていないことだ。金融危機後、2017年10月と11月に失業率が最低水準に達した後、より広範なU6失業率7は2018年1月と2月に8.2%でとどまっていた。2018年2月、失業者数は670万人、経済的理由でパートタイム雇用の人は530万人、縁辺労働者(訳注:現在は職を探していないが以前就職活動し働く用意のある人)は160万人となっている。また、縁辺労働者の大部分は、育児やその他の家族の責任、または通勤のための交通手段がないなどの労働力参加を困難にするその他の要因により、仕事の見通しが立たない(仕事が見つからない)ことに落胆したり、労働力から離脱したりしていた。米国では手頃な価格で保育や公共交通機関を利用できないことを考えると、これは驚くべきことではない。

図1.1 労働力未利用の代替的尺度 出典:BLS; Authors’ calculations
図1.2 就業率と失業率 出典:BLS

しかし、労働統計局は、正式に仕事を希望し、現在において労働可能で、前年に求職した人だけを「縁辺労働者」と見なしているため、U6失業率を測定しても問題を過小評価する可能性が高い。2018年2月には、当時仕事を希望していたが前年に仕事を探していなかった非労働力の人がさらに300万人もいた。これらの人々を考慮した上で、より包括的な尺度として遊休労働者の比率を10.2%まで高く見積もったのが、図1.1の「拡張労働力未利用率」という尺度である。つまり、2018年2月にアメリカで就職を希望していた人は約1,700万人いたことになる。

当然のことながら図1.2に示すように、就業率は景気後退前の水準には遠く及ばない。下落が止まってからの6年半で2.1%しか上昇していない。このペースでいくと、景気後退前のピークを取り戻すには、さらに数十年以上の時間が必要になるだろう。

このグラフで印象的なのは、不況時に就業率が急降下し、失業率が急激急上昇する一方で、それが回復する速度は一般的に遅いことだ。また、今回の景気回復では、失業率と就業率が乖離しているように思われる。失業率は大幅に低下したが、就業率の回復は危機から10年が経過してもほとんど確立してない。

全体の就業率は、景気後退後に低下する傾向があるが、その後、人口全体で復帰する。しかし長期的には、回復期の復帰が不況期の下落を完全には相殺できず、男性のそれは一般的に傾向下降に陥っている。また2000年代以降、働き盛りの労働者の就業率はもちろん、女性でも男性の長期比率と同じパターンを示し始めている。21世紀に入ってからは、女性の就業率は不況の度に回復したものの、景気後退前のピークに戻ることはなかった。2018年2月時点では、図表1.3に示した全ての集団の雇用率が、未だに世界金融危機(GFC)以前のピークを超えていない。この新世紀におけるパターンは、不況のたびにより多くの人々が労働市場から(程度の差こそあるが)永久に排除される、というものである。

このパターンは特に、労働市場への参加率が低下している働き盛りの年齢(25~54歳)の男性に顕著である。実際、図1.4に示すように働き盛りの男性の労働力参加率(labor force participation rate, LFPR)は1970年以降、長期的に低下傾向にある。2000年までは、働き盛りの女性が労働力へ大量に流入することで、それを相殺していた。しかし、2000年に歴史的なピークを迎えて以来、LFPR全体の下落が続いている。

図1.3 各集団の就業率 出典:BLS; Federal Reserve Bank of St. Louis (FRED)
図1.4 労働力参加率(25-54才) 出典:BLS

LFPRの停滞や低下は一般的に、高齢化による55歳以上の定年退職者のLFPR低下(及び人口比率上昇)というような、年齢人口動態に起因するものである。しかしこのような年齢人口動態は、働き盛りの集団のLFPRには適用できない。また、55歳以上の継続被雇用者の割合が増加しており、高齢化によるLFPRへのマイナスの影響は緩和されている。

図1.5 OECD諸国における働き盛りの人々のLFPR 出典:OECD

一部の人は、他の構造的な力が働いていることを強調している。サンフランシスコ連邦準備銀行のジョン・ウィリアムズ総裁は、子供や年配の家族の世話をしたり、進学したり、レジャーを楽しんだりするために、(比較的)若いアメリカ人が労働力を離れる割合が増えていると主張している(Williams 2016)。労働供給の面から見れば、社会保障給付金がより手厚くなったとしても、夫婦が共働きの家庭が増加したことで、労働力の離脱に伴うコストが削減されていることが分かるだろう。働き盛りの労働者は、より低いスキルしか必要としない仕事や、非常に低い賃金を支払う仕事に就くよりも、脱落する可能性が高い。

総需要の不足、雇用創出の貧弱さ、賃金の低迷(これらは全て過去30~40年にわたって持続的に問題となっている)が組み合わさった結果として未成年労働者のLFPRが低下した可能性が高いことを示す証拠が存在する。短期的な景気拡大は時折こうした傾向を打ち消してきたが、それらは持続不可能な資産価格バブル(ドットコム株、商品先物取引、住宅価格)や過剰な民間債務によってもたらされたものである。これは脆弱性を増大させ、所得階層の底辺にいる人々にとってはほとんど無価値だ。さらに、一旦バブルがはじければ長期停滞に逆戻りしてしまう。

人口動態や「ライフスタイル」の選択に加えて、労働市場へ政府が過剰に介入したことによる雇用創出の阻害を指摘する論者もいる。だが国際比較を見ると、そのようなケースが存在する可能性は低い。2015年の米国のLFPRは図1.5に示すように、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も低い水準にあった。米国のLFPRが他のOECD諸国に比べて低いのは過剰な労働市場規制や手厚い社会保障が原因である、という議論は難しい。というのも、米国以外のOECD諸国は、一般的に労働市場がより厳しく規制されており、社会保障制度がより広範で包括的だからだ。さらに米国議会が1996年に「個人責任・就労機会調整法」(本法律は、健常者の政府依存ではなく民間企業の雇用を促進するために、政府の保障に時間的制限を設けた)を可決して以来、米国のLFPRは他のほとんどのOECD諸国とは対照的に低下している(図1.6を参照)。米国はLFPRが低下している数少ない国の一つなのだ。

さらに、これらの国々がいずれも「高齢化」し(実際、そのほとんどが米国よりも労働力が高齢化している)、かつ労働力を必要としなくなる技術革新に直面していることを考えると、これらの要因で米国の労働市場のパフォーマンスが相対的に低くなっているとは思えない。

図1.6 OECD諸国における働き盛りの人々のLFPRの変化(1990-2015) 出典:OECDのデータを基に著者が作成

確かに、社会変化に基づく説明はもっともらしいが、多くのアメリカ人が個人の嗜好に合わせて自発的に労働力を離れているとは考えにくい。事実、上述したように、16~24歳及び25~54歳の年齢層では、現在は仕事をしたくないと申告している非労働力に属す人々が減少している。さらに、18歳未満の子どもがいる夫婦の過去の傾向を見ると、共働き家庭の割合が1960年代の25%から2016年5月の61%近くまで急上昇していることが分かる。どちらの傾向も「ライフスタイルの変化」論とは一致しない。

働き盛りの男性のうち無職でも求職中でもない人の数は過去50年間で2倍以上に増加しているが、配偶者が働いている間は家族と過ごす時間を増やすという「個人的な選択」は、この減少をほとんど説明していないように見える。なぜなら、労働力に参加していない働き盛りの人のうち、働く配偶者がいる人の割合は25%未満で、そのうち36%近くが貧困状態で生活していたからだ(CEA 2016)。その上、未成年男性の参加率の低下は、子持ち未成年男性の2倍になっている。

高齢化によるLFPRへの影響は否定できないが、世界金融危機後の総需要不足は労働者の就業意欲を喪失させた。これにより、長期失業者が、乏しい雇用機会の中で積極的に仕事を探さなくなることで、非労働力に分類される傾向に向かう。つまり、2000年以降の米国の参加率低下の一部分は、このような隠れた失業率の上昇によるものである。

結語

供給側の要因が長期的に経済成長を加速させるという考えは良く知られているが、米国の労働市場にかなりの沈滞が発生し続けていたことを示す証拠がある。どちらかと言えば世界金融危機後は、労働者の意欲低下効果もあって、沈滞が強まっている。このような沈滞とそれに伴う賃金の下降圧力は、労働力を削減する生産技術に企業が投資するインセンティブを低下させる。そうなると、労働生産性を上げるためのイノベーションへのインセンティブが低下してしまう。

言い換えれば、労働者に対する需要が不足していること(米国の生産物に対する需要が不十分なことも一因としてある)が、雇用と総需要、ひいては経済成長率を低下させたままにしておくという悪循環を生み出しているのである。残念ながら政策立案者たちは、LFPRの低下の主な原因が供給側にあると考えているため、それらの現象について、成長を阻害する供給側の制約が存在しているのだと誤読している。

我々は総需要不足が問題の大きな部分を占めていると考えているが、一般的な「ケインジアン」呼水政策で解決できるとは考えていない。熟練度の低い労働者の労働市場を逼迫させることを狙った、雇用創出の形をとる景気刺激策が必要なのだ。アメリカの労働条件の改善を真剣に考えるならば、ルーズベルトのニューディール雇用プログラムや、公共インフラ・公共サービスの提供を改善しながら必要とされるところに雇用を創出するというハイマン・ミンスキーの「最後の雇用者」(Minsky 2013)について再検討すべきである。

米国の遊休労働者の実質的なプールは、総需要の増加と経済成長によって労働に移行する可能性があり、これは生産性の向上に有益である。政策的解決策の一部として民需を促進する方法もあるが、政府支出を増やす余地もある。政府部門に先んじて民間企業が最も雇用可能な労働者(より多くの教育・訓練・実務経験を積んだ者)を採用するであろうから、堅調な景気拡大期であっても残ってしまう労働者を、政府が補っていく必要がある。

以下の節では、働く準備と意思のある全ての人が雇用されるように十分な仕事を創出する、代替的アプローチについて論じている。

第2節 プログラムの規模の予測、人口統計、貧困への影響の予測

本節では、被雇用者・失業者・非労働力という、16歳以上の非組織化市民人口の3つの異なる小集団に対する、プログラムの魅力度を評価することで、連邦政府の公共事業雇用(Public Service Employment, PSE)プログラムの規模の推定値を提供する。本節では、2017年第3四半期での米国のデータを基に、PSEプログラムの規模、人口統計、貧困への影響についての基準推定値を提供する。これらの小集団についての過去データ(本節で後に調整したもの)は、PSEプログラムのマクロ経済効果のシミュレーション(第3節参照)におけるPSEプールを生成する、回帰分析のための独立変数を提供する。8

これらの推定値は、連邦政府が資金を提供するPSEプログラムを対象としており、上述の「プログラム賃金は時給15ドルに設定され、賃金以外の報酬は賃金費用の20%に設定されている」という設計仕様と一致している。この報酬は、健康保険や育児、社会保障の給与税の事業主負担分など、福利厚生のためのものが多い。本プラグラムはフルタイム、パートタイムの両方を募集している。

我々の推計によると、2017年第3四半期には1260万人から1740万人の労働者がプログラムに登録していたことになる。9第3節で示すように、(参加者数の面から見た)プログラムの規模は、規模が拡大が続くにつれて、またPSEプログラム自体が追加的な景気刺激を加えるにつれて、景気に対して反循環的に減少していくことになる。

これ以降の本節では、これらの数字をどのように計算したのかを説明する。さらに、プログラム参加者に占める人種、性別、民族ごとの割合を示す。我々は、このプログラムが特に女性を中心とした人種的・民族的マイノリティに利益をもたらすことを示す。最後に、貧困に対するプログラムのプラス効果を簡単に検証する。

PSEの規模の推定

ここでは、 2017年第3四半期にPSEが1つ実施されていたら、何人くらいの人が参加していただろうか、ということが疑問だ。この疑問に答えるために我々は、16歳以上の非組織化市民人口(以後「CNIP 16+」と表記)の3つの区分(失業者、雇用者、労働力外者)を見て、プログラムに参加すると予想される人数を決定する。様々な集団(パートタイム労働者、フルタイム労働者、最低賃金以下で働く労働者など)を調査し、フルタイムの仕事を確保するために、あるいはプログラムの仕事で時給15ドルというより高い賃金を得るために参加すると予想される人数を、大まかに見積もる。

推定によると、2017第3四半期に480万人から610万人の失業者がPSEプログラムに参加した。加えて、310万人から620万人のパートタイム労働者が、フルタイムの仕事を得るために本プログラムに参加していた。約16万人のフルタイム労働者が低賃金の仕事を辞めて、時給15ドルのプログラムに参加していた。また、475万人から510万人の人々が、プログラムで働くために労働力参加した。PSEプログラムへの参加予定者総数は、2017第3四半期での失業者数に関する公式推計値の約2.5倍となった。10

本節における以下の項では、これらの推定値について詳しく説明する。

失業者に対する影響

PSEプログラムは、労働統計局(Bureau of Labor Statistics, BLS)の公式な定義に従って「現在失業している」と扱われる、CNIP16+における小集団に最も明白な影響を与えるだろう。11もちろん、公式の失業者全員が直ぐにプログラムの仕事を引き受けるわけではない。そこで、公式の失業者がプログラムに参加する可能性に密接に関係する2つの要因、すなわち失業期間と失業理由に注目する。

表2.1 失業者からのプログラム参加者に関する推定値(2017年第3四半期、季節調整なし、単位:千) 注:BLSは独自に季節調整を行っているため、データが合計される必要はない。 出典:BLSのデータを基に著者が作成。

短期失業者は、直ぐにプログラムの仕事を受け入れるのではなく、自分の普段の仕事でフルタイムの仕事を探したいと思うかもしれないが、長期失業者はプログラムに移行する可能性が高い。広範な学術的文献によると、長期失業者(27週間以上も失業している)は、短期失業者に比べて仕事の見通しが悪く、労働力から離脱する可能性が高いことが示されている。さらに、失業期間が長ければ長いほど、仕事を見送ることに関連するコスト(経験やスキルの損失)が大きくなり、PSEプログラムに参加する可能性が高くなる。

2017年第3四半期の公式失業者数は約700万人だった。失業者の大多数(約81%)がフルタイムの仕事を探しており、5週間以上仕事を探していた。失業期間の中央値は10.5週間であったが、平均失業期間は25.4週間とかなり高かった。12過去数年間の失業率の低下にもかかわらず、2017年第3四半期の平均失業時間は2007年以前のそれよりも高かった。

一時解雇されている人は、失業したばかりの人や、失業補償を受けながら民間の仕事を探し続けたいと考えている人のように、このプログラムに参加する可能性は低いと、我々は想定している。失業期間が長くなればなるほど、個人がプログラムに参加する可能性が高くなると仮定している。表2.1は、失業区分別のPSE参加者の上限値と下限値を示したものだ。我々の仮定に基づけば、480万人から610万人の失業者がPSEの労働に加わっていたことになる。

我々の推定の上限値は、失業理由のデータから導き出されている。これには、一時解雇されているわけではない全ての失業者13が含まれており、2017年第3四半期の失業者人口の86%に相当する。下限値は、失業期間に基づいてプログラム参加者数を推定している。失業の理由を問わず、5週間以上失業している者(失職者、臨時雇用の仕事を終えた者、離職者、労働力への再・新規参入者)を含んでいる。これは失業者の68%に相当する。

被雇用者に対する影響

PSEプログラムは、現在雇用されている一部の人々、特に報酬(賃金、給料、給付金を含む)が低い人々や、経済的または非経済的な理由で非自発的にパートタイム雇用されている人々にとって魅力的なプログラムである可能性が高い。推計によると、2017年第3四半期にこのプログラムが実施されていたとしたら、310万人から620万人のフルタイム雇用労働者またはパートタイム雇用労働者がPSEの仕事に就く可能性が高い。ここで、被雇用者人口の各小集団についての仮定について簡単に説明する。

パートタイム労働者

2017年第3四半期において、パートタイム労働者(1~34時間労働)は2,650万人14で、そのうちフルタイムの仕事ができないためにパートタイムで働いている人(経済的な理由でパートタイムで雇用されている人)は520万人いた。残りは、育児問題、その他の家族や個人的な義務、健康上の制約、学校や訓練、社会保障による収入の制約、または仕事に必要な交通手段の不足など、経済的でない理由でパートタイムで働いていた。

表2.2 現在の被雇用者からのプログラム参加者に関する推定値(季節調整なし、2017年第3四半期、単位:千) 注:パートタイム労働者とは、調査対象の週における労働時間が1〜34時間の人を指し、1週間ずっと仕事を休んでいた人は含まない。フルタイムとは、調査対象の週に35週以上働いた人を指す。時給とは、労働者の本業に支払われる賃金のことであり、残業代、歩合給、チップは含まれていない。 *現行の連邦最低賃金以下の時給で雇われている賃金・給与労働者を指す。 出典:BLSのデータを基に著者が計算

本プログラムは、非自発的にパートタイムで働いている人たちに大きな影響を与える可能性が高い。これらの労働者の大部分が、本プログラムに参加する、つまり、民間のパートタイムの仕事を辞めて本プログラムのフルタイム雇用に移行する、15あるいはPSEのパートタイムの仕事で民間のパートタイムの仕事を補うと予想される。16本プログラムが提供する給付金は、非経済的な理由でパートタイムで働いている者も含めたパートタイム労働者にとって、(民間のパートタイム労働ではそのような給付金を受ける可能性が低いため、)特に魅力的なものとなる可能性がある。17

表2.2は、パートタイム労働者に関する仮定を示したものである。パートタイムで働く理由には、経済的な理由もあれば、育児に関する理由もある。18下限値は、(通常はフルタイムまたはパートタイムで働く)経済的な理由でのパートタイム労働者の50%、19そして育児を理由にパートタイムで働く人の50%を含んでいる。

フルタイム労働者

2017年、約51万人のフルタイム労働者が実勢連邦最低賃金以下の時給で、約13万人が連邦最低賃金と同水準の時給で働いていた。20我々は、本プログラムが提供する時給15ドルという賃金に対抗するために賃金を上げない民間雇用主の雇用が、25%減少すると仮定している。これは、16万人が本プログラムに加わったことを意味する。表2.2に示したように、低賃金の時給制フルタイム労働者の25%が上限値の推計に、12.5%が下限値の推計に含まれている。

非労働力に対する影響

2017年第3四半期、現在は労働力を離れているが「今すぐ仕事がしたい」と申告している人の中からは、約570万人がこのプログラムに参加すると予想される。そのうち、前年に仕事を探した人は約220万人、労働可能な人は約160万人だ。我々の上限値には、労働不可能な人を除いた、今すぐ仕事をしたいと申告したあらゆる人々が含まれている。下限値では、病気・障がいを抱えている人や学業・訓練を行なっている人を除いた、今すぐ仕事をしたいと思っているあらゆる人々がプログラムに参加すると仮定している。21表2.3の推計によると、2017年第3四半期にこのプログラムが利用可能であれば、現在労働力から離れている人のうち475万人から510万人がこのプログラムに登録していたことになる。我々の計算によると、彼らが労働力に参加した結果、2017年第3四半期の労働力率は63.2%ではなく65.1%と、約2%高くなっていたことになる。

表2.3 非労働力からのプログラム参加者の推計(季節調整されていない、2017年第3四半期) *就業意欲喪失者とは、「求人がないと思っている」、「仕事が見つからない」、「学校教育や訓練を受けていない」、「若過ぎる、あるいは高齢過ぎると雇用者に思われた」などの理由で過去4週間に積極的に仕事を探さなかった縁辺労働者のことだ。 **過去4週間に育児や交通機関の問題などを理由に積極的に仕事を探さなかった人や、労働力不参加の理由が不明な人も含む。

予測の要約

表2.4に我々の総計の見積もりを要約した。2017年第3四半期には1,270万人から1,740万人の労働者が雇用されると推定している。

表2.4 PSE労働力の推定規模(2017年第3四半期、単位:千人) 出典:BLSのデータを基に著者が作成

PSE労働者の人口統計と、女性及びマイノリティへの影響

PSEプログラムは、労働市場における特定の人種、民族、性別の不平等に対処するのに進歩的な役割を果たすことになるだろう。黒人やヒスパニック系の人々は、労働市場でより不確実・困難・不安定な立場に陥る傾向がある。これらの集団は、失業率や不完全雇用率が高く、失業期間が長くなる傾向にある。また、高賃金の仕事(管理職・専門職など)で働く可能性は低く、ほぼ全ての職業集団で週の中央値収入が非常に少なく、22ワーキングプアである可能性は他と比べて2倍である。

驚くことではないが、これらの集団は、PSEプログラムから相対的により多くの恩恵を受ける。上述したCNIP16+に区分された集団の人口統計データを使用すると、プログラムに参加している人種的・民族的マイノリティの比率は、彼らがCNIP16+に占める割合、そして労働力に占める割合よりも大きくなることが分かる。本節では、上記で選択したCNIP 16+の小集団における、潜在的にPSEへ参加する労働者23の人口構成を分解している。

失業の人口統計24

2017年第3四半期の全体の失業率は4.4%だった。若者、黒人、ラテン系の人々が最も高い失業率を経験した。実際、黒人の失業率は白人(3.8%)の2倍の7.5%だった。ヒスパニック系・ラテン系の5.1%よりも高かったのだ。また黒人の失業期間について言えば、平均値は28週間、中央値は12.5週間とそれぞれ長い。黒人の10代(18~19歳)の失業率は33.9%で、他のどの人口集団よりも高くなっている。

不完全雇用・低賃金にある労働者の人口統計

予測プログラム参加者の人口統計は、失業者・不完全雇用・縁辺労働者の人口統計を反映しており、女性・黒人・ヒスパニック系の参加者が占める比率が大きい。黒人・ヒスパニック系は、CNIP16+や労働力に占める割合よりも、経済的理由によってパートタイムで雇用される人々に占める割合の方が高い傾向にある。またこれらの集団は、フルタイム雇用されても最低賃金以下の時給である可能性が高い。一方では、白人、特に女性は、非経済的な理由でパートタイム労働をしている可能性が比較的高い。これらの集団は全て、PSEプログラムの導入により恩恵を受けることができる。

非労働力の人口統計

全ての人種の女性は、仕事が欲しくても非労働力に脱落してしまう傾向が強かった。男性は、前月に仕事を望んでいたが探していない理由として、落胆を挙げる方が多かった。一方、女性は、単に縁辺労働者として分類されているが、理由として「その他」を挙げる傾向にある(「その他」には、育児問題や、伝統的に女性の責任とされている家族的責任などが含まれている)。さらに、黒人やヒスパニックは白人に比べて、仕事を望んでいても労働力から離脱している可能性が高かった。繰り返しになるが、このプログラムはこれらの集団全てに恩恵をもたらす。

潜在プログラム参加者の人口統計

表2.5は、上記の推定に基づいて、潜在プログラム参加者に占める人種・民族・性別ごとの内訳を示したものだ。上記の我々の調査結果と整合するように、黒人とヒスパニック系の人々は、CNIP16+や労働力に占める割合と比べて、プログラム参加者に占める割合が大きい。

貧困削減とPSE

普遍的な雇用保障プログラムを通じた持続的で堅固な完全雇用は、米国における貧困と闘うための最も効果的な政策手段だ。この国の貧困とは、所得分配の問題、賃金の不足、労働時間の不足が大きいことだ。PSEプログラムは、働く意思があり準備ができている全ての人に、生活賃金で要求に応じて仕事を提供することで、3つの問題に同時に対処する。さらに、生活賃金での完全雇用は、低賃金の仕事に就く労働者の交渉力を高め、その結果、産業や職業間の賃金格差を減少させる。

アメリカの貧困

2016年、アメリカでは4,060万人、2,780万世帯が貧困の中で生活している。黒人とヒスパニックは最も高い貧困率を被っていた。女性は男性よりも貧困ラインを下回る可能性が高く、10代や児童は18歳以上よりも遥かに貧困ラインを下回る可能性が高かった。高齢者の貧困率は、社会保障制度のおかげもあって、最も低かった。女性の単身世帯主がいる家庭は、男性の単身世帯主がいる家庭に比べて、貧困を経験する可能性がほぼ2倍であった。また、18歳未満の子供がいる家庭では、子供のいない家庭よりも貧困率がはるかに高くなっていた。

表2.5 潜在PSE労働力(2017年第3四半期) 注:異なる民族集団が人種ごとに細分化されていないため、推定値は合計には加算されない。CNIP 16+と労働力人口については2016年の年平均を使用している。

生活賃金を支払う仕事があれば、個人や家族が貧困に陥る可能性が低くなる。雇用されている労働者がいない、またはパートタイム労働者が 1 人しかいない家庭は、フルタイム労働者がいる家庭に比べて、貧困基準値を下回る可能性がはるかに高い(それぞれ26.4%、29.6%)。年間を通してフルタイムで働く労働者が少なくとも1人いる家庭のうち、貧困基準の100%を下回ったのはわずか3%だった。つまり、フルタイムの仕事に就けないことで、貧困に陥る確率が10倍近くになるのだ。

このパターンは、18歳から64歳までの個人でも似たようなものだ。2016年中に少なくとも1週間働いた人は、1週間すら働かなかった人に比べて貧困率がはるかに低かった(前者が5.9%であったのに対し、後者は30.5%)。

18歳未満の子どもがいる家庭は貧困ライン以下である可能性が高く、労働者がいない家庭は最も高い貧困率に直面し、パートタイム労働者しかいない家庭は全国平均を遥かに上回る貧困率を経験している。25

ワーキングプア

フルタイムで働く機会があれば、貧困の発生率が大幅に減少する。2016年、この年に労働していた18歳から64歳までの875万人が貧困下で生活していた。これと同じ年齢層のフルタイム労働者の貧困率はわずか 2.2%であったが、フルタイムでない人や全く働かない人はより高い貧困率に直面していた(それぞれ14.7%と30.5%であった)。

BLS(2017a)は、労働者が貧困から脱出できないようにする労働市場の問題として主に、低所得、失業、非自発的な非正規雇用という3つを挙げている。2015年には、ワーキングプアの82%がこの3つの問題のうち少なくとも1つを経験している。少なくとも27週間労働市場に参加して上記3つの問題を全て経験した労働者の約40.3%が、貧困基準値以下で生活していた。低賃金や一定期間の失業を経験した人は、41.4%の確率で貧困ラインを下回っていた。低所得は、ワーキングプアにとって最も一般的な唯一の問題であり、低賃金で少なくとも27週間働いた人の25%が貧困ライン以下の生活をしていた。

表2.6 貧困基準値(US$), 2016年 出典:アメリカ合衆国国勢調査局

上記のPSEプログラムは、生活賃金でフルタイムの仕事を提供することで3つの問題に一度に取り組むものだ。また、このプログラムは時給15ドルの全国的最低賃金を設定し、育児や医療などの福利厚生も包含するため、実施されれば、最低賃金よりも低い賃金を受けていたり、雇用主から十分な福利厚生を受けていない民間部門の労働者にも恩恵が及ぶと期待される。26経済政策研究所の調査(Cooper 2017)では、最低賃金が時給15ドルに引き上げられた場合、4,000万人以上の労働者が影響を受けると試算している。仮に法定最低賃金が引き上げられなかったとしても、15ドルを支払うPSEプログラムが存在すれば、準備ができて意欲的に働く人なら誰でも最低限その賃金が保障されるだろう。

また、経済的な理由や、育児に関する非経済的な理由でパートタイム雇用されている人の多くが加入すると予想される。本プログラムの賃金は、パートを続けている人も受け取ることができる。これにより多くの家庭は副業で所得を得られるようになる。

子供の貧困

アメリカの18歳以下の子供は、世界で最も貧困率が高い。2016年には、働く世帯員がおらず、18歳未満の子供がいる家庭の80.3%が貧困状態で生活していた。対照的に、年間を通じてフルタイムで働く世帯員が少なくとも1人いる家庭では、貧困層がわずか4.9%だった。子供のいる家庭は、家族の一人以上が年間を通してフルタイムで働いていた場合、貧困基準値を下回る可能性がかなり低い(0.7%だった)。

PSEプログラムの貧困への影響

上述したように、本プログラムは効果的な最低賃金を設定する。今日、現行の連邦最低賃金で週40時間・52週間働いた個人(つまりフルタイム労働者)は、年間15,080ドルしか稼げない。表2.6に見られるように、世帯員の一人だけが最低賃金でフルタイムで働いている家庭は、(賃金と給料が唯一の収入源と仮定すると、)貧困基準値を下回ることになる。

対照的に、PSEの賃金が時給15ドルの場合、プログラム参加者は年間を通してフルタイムで雇用され、31,200ドル27の年収を得ることになる。これは典型的な4人家族の貧困基準値を大幅に上回る。実際、世帯員の一人がPSEプログラムでフルタイムで働くだけで、5人家族(18歳未満の子供の有無にかかわらず)を貧困から救い出すことができる。

本プログラムに最低1人の世帯員がフルタイムで参加すれば、最大5人の家族が貧困から解放される可能性がある。もしさらに別の世帯員がこのプログラムで年間を通してアルバイト(つまり週20時間、52週間)をしていたとしたら、8人家族を貧困から引き上げるのに十分な家計所得になる。ついには8人家族以上の世帯であっても、最低2人がフルタイムで働けば貧困は根絶される。

表2.7 家族の規模と扶養する子供の家族数ごとに見た貧困人口 出典:アメリカ合衆国国勢調査局のデータを基に著者が作成

本プログラムの実施により貧困から救われる可能性のある様々な家族単位の大人と子供の数は、プログラムの仕事を受ける意欲と能力のある貧困世帯の個人の数に依存するだろう。貧困世帯の構成員が何人参加するかは分からないが、家族単位の規模に従って、貧困基準値以下で生活する大人と子どもの数を推定することができる(表2.7参照)。28

我々の計算によると、もし世帯の一人が年間を通してこのプログラムでフルタイム雇用されていれば、950万人の18歳未満の子供たちが現在の貧困基準値を上回る可能性がある。また、6人~8人家庭にいる子供たち290万人を貧困から救うには、世帯員のうち2人がプログラムに参加し、1人はフルタイム、1人はパートタイムで年間を通じて雇用されていれば良い。8人以上の家庭では、2人のフルタイム労働者がいれば家族全員が貧困を抜け出せる。

何らかの理由(障害、病気、年齢を含む)から本プログラムでフルタイム労働できない場合、家庭はまだ貧困基準値を下回る可能性があるのは明らかだ。世帯員が働くことができない(あるいは働くべきでない)家庭のために、手厚いセーフティネットは所得を支援・補償するためのものでなければならない。本プログラムは、このような移転支出を受け取る世帯数を大幅に減らすことができる。さらに、これらの世帯が地域的なPSEプログラムによって創造された現実の生産物から直接・間接的に利益を得られれば、これらの世帯に必要な純所得移転の規模は小さくなるだろう。働きたい人全員が生活賃金で仕事を得られるようになれば、社会的セーフティーネットへの需要は遥かに小さくなるだろう。

貧困を解消するためのコスト

我々は、貧しいアメリカ人全員を貧困ライン以上に引き上げるためにPSEプログラムの雇用を利用した場合の、コストを見積もることができる。なおここでは賃金コストのみを考慮する。

2016年に公式の貧困ライン以下で生活していた家族、810万戸の平均赤字は、一家族あたり10,505ドルだった。言い換えれば、貧困家庭を救うためには、平均してさらに10,505ドルの所得が必要だったのだ。この差は、家族の中の1人がパートタイム(一日あたり4時間)で年間176日間だけ本プログラムで働けば埋めることができる。そう考えると、全家庭を貧困ライン以上に引き上げるための総コストは約850億ドルになる。さらに、貧困ライン以下の生活をしている個人は1,230万人いた。一人当たりの平均赤字は6,815ドルだった。これらの人々を貧困ライン以上に引き上げるための総コストとして、新たに840億ドルが必要になる。これらの個人は、所得を貧困ラインまで上げるために、平均して年間約115日(一日あたり4時間を想定)のパートタイム労働をしなければならない。したがって、2016年における本プログラムのパートタイム雇用による貧困解消にかかる総コストは約1,690億ドルになる。

この試算では、所得の増加(及び誘発されるGDP)による税収の増加額と、低所得世帯を対象とした連邦・州・地方の幅広いプログラムによる潜在的な貯蓄額は除外されている。例えば2015年の連邦政府は、食物・栄養サービスプログラム(補助的栄養支援プログラムの740億ドル、児童栄養プログラムの210億ドル、女性・乳児・児童栄養補助プログラムの60億ドルを含む)で104億ドル、貧困家庭のための一時的な支援で173億ドル、住宅支援で500億ドル、所得税控除で670億ドルを支出した。さらに、社会福祉事業と所得維持のための、各州の公的福祉事業への直接支出の合計は5,050 億ドルだった(これには衛生・警察・犯罪者の矯正への支出は含まれていない)。仕事を望む人全員が時給15ドルで働けるようになれば、これらのプログラムの多くは大幅に削減されるだろう。

本稿第3節のシミュレーションでは、PSEプログラムへの直接支出の総額は年間約5,000億ドルと推定されており、貧困家庭を貧困ライン以上に引き上げるために必要な支出の約3倍となっている。しかしながらPSEプログラムは、完全雇用の保障(時給15ドルで働く意欲のある全ての人に仕事を提供する)、民間部門の賃金の引き上げ、労働条件や福利厚生の改善、民間部門の雇用創出への刺激、GDPの増加など、貧困撲滅プログラムを遥かに超えたものである。

補論2.1

表A2.1は、2017年第3四半期ではなく2017年第4四半期でプログラムを実施した場合の、様々な区分ごとの初期PSE労働力を示している。

表A2.1 PSE労働力の推定規模(2017年第3四半期と2017年第4四半期) 出典:BLSのデータを基に著者が作成

後注

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7. U6労働力未利用率とは、より広い意味での失業率の指標であり、就業意欲喪失者(縁辺労働力)やフルタイム雇用を希望するパートタイム労働者も含まれている。

8. また、ここでは2017年第4四半期(注釈と付録2.1に記載)のデータを用いて推計値を更新した。第3節のシミュレーション演習で使用される回帰分析は、PSEプログラムが段階的に導入される2017年第3四半期と第4四半期、及び2018年第1四半期についての推定値の結果を、厳格に再現している。本節は、PSEプログラムが雇用と貧困に与える直接的な影響のみを報告しており、民間雇用やGDPに対する「乗数効果」は考慮していない。第3節のシミュレーションは、これらの間接的な乗数効果を包含している。本節の内容を拡張したものは、レビー・インスティチュートの論文として発表される予定だ。

9. 2017年第4四半期に本プログラムが実施されていたとすると、2017年第4四半期では1,150万~1,630万人の参加が推定される。これは、2017年第3四半期から2017年第4四半期にかけて労働市場の状況が改善したことによるものだ。第3節で述べるように、実施当初のプログラムの規模は継続的な改善によって徐々に小さくなっていく。

10. これらの数値は、PSEプログラムが次の四半期に実施されていた場合、わずかに変化していただろう。推定によれば、2017年第4四半期には420万人から550万人の失業者がPSEプログラムに参加した。加えて、310万人から620万人のパートタイム労働者がこのプログラムに参加し、フルタイムの仕事に就くことができた。約16万人のフルタイム労働者が低賃金・時給の仕事を辞めて、時給15ドルでプログラムに参加していた。最終的に、さらに420万~450万人がPSEの仕事のために労働力へ戻ってきた。2017第4四半期の数字の内訳は補論2.1を参照してほしい。

11. 公式な失業者に分類されている人は、まずCNIP(矯正施設や軍隊、ホスピスケアなどの医療機関に属している16歳以上の人は除外される)に必ず属している。また、調査対象の週の4週間前から積極的に就職活動を行っている。政府がどのように失業を測定しているかについては、BLSの資料(BLS, 2014)を参照してほしい。BLSが使う用語と定義については、下記リンクを参照してほしい。https://www.bls.gov/bls/glossary.htm#U

12. 失業者のうち、15週間以上失業した者の占める割合が高い(2017年第3四半期には失業者全体の39.7%)。またこの集団は、さらに長期で失業している小集団に多くを占められている(2017年第3四半期での「15週間以上失業している者」の64%が、27週間以上失業していた)。

13. 全ての一時解雇が自発的なもの(または有給)であるとは限らないため、この小集団内にはこのプログラムに参加する労働者がいると予想され、その多くは長期に渡って非自発的に失業している労働者であろう。また、失業期間が長くなるにつれて、一部の離職者や再・新規労働力参加者がプログラムに参加する可能性は高くなると予想している。一時解雇されている人、離職者、新規労働力参加者、失業期間が5週間未満の再労働力参加者を含んだ場合、上限値は上記と同様の大きさ、約590万人となる。

14. なお、季節調整はしていない。

15. 非自発的に就いていた民間パートタイム雇用を辞めて本プログラムに入る理由としては、一つあるいは複数の職場への移動、一つあるいは複数の上司への報告、一つあるいは複数の社会環境や職場環境への対応といった、働きやすさに関する理由が考えられる。さらに、このプログラムによって地域に創設された公共事業が民間企業の雇用よりも充実しており、PSEは福利厚生パッケージを手に入りやすくさせる可能性がある。

16. また、非自発的に民間パートタイム企業で働く労働者の中には、時給が高い、キャリア向上の機会がある、民間企業で経験を積みたい、人脈作りをしたいなどの理由で民間企業に留まる人もいる。

17. BLSによると、2017年3月には一般労働者の7割が、雇用主支給の給付金を受けられるようになっていた。しかし、その利用可能性は本業・報酬・仕事ごとに大きく異なる。サービス業労働者、低賃金労働者、パートタイム労働者は、恩恵を受ける機会が著しく少なくなっていた。例えば、雇用主が提供する医療給付金を受けられるのは、フルタイム労働者で95%なのに対し、民間パートタイム労働者ではわずか19%である。有給の病気休暇は、フルタイム労働者の84%が取得しているのに対し、パートタイム労働者では36%しか取得できていなかった。

18. つまり上限値の推計は、もしPSEプログラムを通じて利用できる無償かつ信頼できる保育があれば、育児の責任に関する非経済的な理由でパートタイムで働いている人たちがPSEでフルタイムで働くことを選択すると仮定している。

19. 通常はフルタイムで働いているのに経済的な理由でパートタイム労働をしている人は、通常もパートタイムで働いているパートタイム労働者よりも、フルタイム雇用に戻りやすいと、我々は考えている。

20. 公正労働基準法によると、連邦政府が定めた最低賃金が適用されない労働者には、障がいのある労働者、チップ制労働者、学生・生徒、全日制の学生、20歳未満の若者(最初の3ヶ月間連続して働く場合)が含まれている。それら全ての人が本プログラムに魅力を感じるとは限らないだろう。チップ制労働者は、プログラムに参加するよりも、立法化された最低賃金とチップを受け取り続けた方が良いと思うかもしれない。本プログラムの仕事が、十分に充実した給付金パッケージ(医療を含む)を含んでいる場合や、より有意義でやりがいがあり、地域共同体にとって有益な場合などには、プログラムへの参加を決める人もいるだろう。 また、学生・生徒であれば、ネットワーク作りや研修、職務経験を手に入れる代わりに、民間企業で低賃金労働をする可能性も考えられる。現在において低賃金でフルタイムで雇用されている障がい者は、雇用主が本プログラムの賃金に見合った賃金を支払わない限り、より高い賃金を求めて本プログラムに参加することができる。

21. 我々の下限値がBLSの定義する「縁辺労働者(marginally attached to labor force)とは異なることに注意してほしい。我々は、縁辺労働者(今すぐ仕事をしたいと思い、かつ仕事ができるが、教育・訓練を受けていた人、病気・障がいを抱えていた人)を除外している。なぜそうするかと言うと、これらの人々がプログラムに簡単に参加する可能性が低いからだ。確かにこの人々のうち何人か(特に、長期的な障がいを抱える、仕事を希望する人々)は参加するだろうが、概して少ないだろう。

22. 例えば BLS (2017b) を参照せよ。

23. 我々の研究は、BLSが月・四半期・年ごとに公表する人口調査の表で、小集団の人口統計学的特徴が利用可能かどうかによって制限されている。各小集団について、データは選択された特徴についてのみ容易に利用可能だ。失業期間別に分類された失業者と、非自発的パートタイム労働者について詳細な月次データはあるが、その他の集団(特に、理由別に分類された失業者、経済的理由・非経済的理由によるパートタイム雇用者、フルタイム雇用されているが最低賃金以下で働く者、非労働力だが今すぐ仕事をしたいと申告した者など)の構成を推定するために年平均を用いた。これらの集団については、性別・人種・民族別の構成をBLSの年間平均値を用いて間接的に推定しなければならなかった。

24. 本節のデータは、以下の人口調査の表、A-36(www.bls.gov/web/empsit/cpseea36.htm で入手可能)及びE-16(www.bls.gov/web/empsit/cpsee_e16.htm で入手可能)から引用している。

25. 例えば6歳未満の子供がいる家庭について言えば、家族のうち1人がパートタイム(または一年ごとの労働契約)で働いている世帯の貧困率は58%と高い。この貧困率は、世帯の2人以上の人がパートタイムで働いている家庭では低下して23%だった(データは www.census.gov/data/tables/time- series/demo/income-poverty/cps-pov/pov-08.html で入手可能)。

26. 保育に関するBLSのデータによると、フルタイム労働者もパートタイム労働者も限られた人しかそういった社会保障を受けていなかったと明らかになった。2016年には、民間フルタイム労働者のわずか13%、そして民間パートタイム労働者の5%しか享受していなかった。高所得の労働者ほど、保育を受けている可能性が高かった。職種別の平均賃金で労働者を順位付けしてみると、最も低い四分位の民間労働者では4%しか保育を受けていなかったのに対し、最上位の四分位の民間労働者は19%も保育を受けていたことが分かった。

27. ここでは、PSEの労働者が時給15ドルで週40時間・52週間働くと仮定しているので、年収は $15 x 40時間 x 52週 = $31,200 と計算される。(年間50週とし、2週間の有給休暇を設ける場合がある。しかし、この調査の目的のため、有給休暇は福利厚生として含まれていない。PSE賃金が有効な最低賃金になるのと同様に、有給休暇を含む追加給付も有効な最低賃金になることに注意してほしい。有給休暇を増やすことで、他の雇用主にも同じようなことをするよう圧力をかけることになるだろう)。

28. 我々は、異なる家族単位における、大人と子供の構成に基づいて計算している。例えば2016年、3人の子供がいる4人家族で貧困状態にある人が2,281人いた。したがって、3人の子供がいる4人家族のうち、1,711人(75%)が18歳未満であったと分かる。