税と国債は政府支出を賄えるのか

MACROECONOMICS

税と国債は政府支出を賄えるのか ステファニー・ケルトン

訳者からの注意

本Webページは、ステファニー・A・ケルトンの1998年7月における論文「Can Taxes and Bonds Finance Government Spending?」を日本語訳したものである。

要約

本稿では、政府支出は通常、税金と国債売却の組み合わせによって賄われる、という一般的な信仰を検証する。その議論は技術的なものであり、中央銀行の準備会計を詳細に分析する必要がある。準備会計の複雑さを慎重に検討した上で、税金や国債売却による収入は技術的に政府支出を賄うことができず、現代の政府が実際には、あらゆる支出をハイパワードマネー(high-powered money, 以下「HPM」)の直接創出して賄っていると論じる。この分析は、財政政策だけでなく、金融政策にも大きな意味を持つ。

目次

1.はじめに

政府(赤字)支出を資金調達するための最適な方法は、多くの経済学者の間で論争の的となっている(Modigliani, 1992; Trostel, 1993; Ludvigson, 1996; 及び Smith et al.1998を参照)。政府が資金調達するには、課税、利付債務の売却、政府貨幣1の「発行」・創造の中から選択する(またはこれらの組み合わせ)必要があると、ほとんどの人が同意するだろうが、これらの選択がもたらすマクロ経済的な結果については、しばしば激しい意見の相違がある。例えば、バロー・リカードの定理(Barro, 1974)は、資金調達の選択が取るに足らないものであるとしている。これは、家計が、国債で賄われた政府支出が将来的に増税を必要とすることを知ることで、今よりも多く貯蓄をするように誘導されるからだと主張されている。誘導された貯蓄(これは新たな政府債務を購入するのに十分な金額である)は、民間の純資産をそのままにして、政府支出の刺激効果を完全に相殺する。同様に、トービンが認識しているように、要求払いの債務(すなわち「貨幣発行」)によって賄われた支出は、マネタリストのリカーディアンに、物価水準の調整によって貨幣の実質量の変化が妨げられるので、「債券の雨」のような「貨幣の雨」は総計的な民間の資産・消費には何ら影響しないだろうと提言するよう導くかもしれない(Tobin, 1998)。すなわち、債券や貨幣で賄われた赤字支出は、あらゆる支出が同時期の課税によって賄われていた場合と「同等」の結果をもたらすのである。

対照的に、一部のケインジアンは、赤字財政の源泉に関する選択は確かに重要であると主張している(Blinder and Solow, 1973, 1976; Buiter, 1977; Lerner, 1973; Tobin, 1961)。彼らにとって、借入・貨幣「発行」による経済的帰結は、政府支出が同時期の課税のみで賄われる場合とは大きく異なる可能性がある。この学派の中のほとんどの人は、「貨幣発行」とは政府支出を賄うのに最も非常識かつ望ましくない方法であるということに同意するだろう。事実、ほとんどの人は、納税額を超える支出の資金調達には国債売却が使われている(使われているはずだ)と言うだろう。

資金調達の決定の結果についての信仰は異なるものの、両学派とも、政府は支出の調達方法を選択していると明確に信じている。しかし、このような継続的な議論の中で目立って欠落しているのは、準備会計の意味合いの詳細な検証である。これらの含蓄が標準的な分析に組み込まれていないため、多くの経済学者は様々な「資金調達」方法のマクロ経済的な結果について議論を延々と続けている。これらの議論は、税と国債売却と赤字支出の間にある、見かけ上の相互依存性にそのまま従ってしまっている。そこで、これらの政府の業務が銀行準備に与える影響を考えれば、その相互依存性を、必要な資金調達上の関係ではなく、「準備効果」の結果として説明できる。

すなわち本稿では、政府支出、課税、国債売却が総計の銀行準備に与える影響を追跡することで、財務省の業務の「準備効果」を詳細に検証する。第2節では、政府支出と課税が銀行準備に与える影響と、その結果としての準備効果の重要性について詳述する。第3節では、準備効果を最小化するためのいくつかの重要な戦略が紹介する。第4節では、赤字支出を取り上げ、国債売却の様々な方法の準備効果を検討する。第5節では、準備会計の複雑さを丹念に考察し、新たに創造された貨幣はあらゆる政府財政の源泉であることを明らかにする。さらに、税や国債売却による収入は、その回収という行為が破壊を意味するため、政府支出を賄うことさえできないと主張する。最後に、政府の(赤字)支出を賄うための手段に関する議論は、銀行システムから(超過)準備を排出するための手段に関する議論にすべきではないかと提案する。

2.課税と支出の「準備効果」

様々な財務省の業務による「準備効果」を検討する前に、まず、総計の銀行準備を良く観察することから始めるのが賢明だろう2。連邦準備銀行(訳注:以下、FRB)のバランスシートをはじめ、バランスシートの両側には互いに相殺し合う会計項目を配置することができ、代数的に操作することで銀行準備を分離することができる3。この結果は、しばしば「準備方程式」と呼ばれ、総計の銀行準備は、準備資金の「源泉」と「使用」の差として描かれている。準備方程式は以下のように書ける。

図1

図1から明らかなように、準備は、左の括弧内のいずれかの項が増加すると増加し、右の括弧内のいずれかの項が増加すると減少する。

2.1 課税と支出による「準備効果」

本節では、政府支出と課税という2つの重要な財務省の業務による準備効果を分析する。これらの業務が銀行準備に与える影響を強調するために、政府による支払いや受領が全て、直ちに準備銀行の口座へ反映されるケースを検討する4

政府は支出をする際、FRBの口座に宛てて小切手を書く。小切手が商業銀行の口座に預けられたと仮定すると、FRBが財務省の口座を引き落とし、図1の右の角括弧が減少し、商業銀行の口座に振込がなされることで、銀行準備は(小切手の金額分)増加する。すなわち、財務省保有の準備口座に宛てた小切手が商業銀行に預けられると、銀行準備がシステム全体で増加することになる。政府支出は(他の条件が同じならば)総銀行準備を増加させるのだ。

財務省が、FRBの口座から資金を振り込むのではなく、この口座に資金を振り込まれると、その逆が真となる。例えば、もし納税者が歳入庁へ小切手を送って納税した場合、歳入庁が小切手を財務省保有の準備口座へ預けるため、納税者の銀行、及び銀行システム全体で同額の準備が失われることになる。図1の右の角括弧の増加に伴い、総銀行準備は減少する。すなわち、小切手での納税は(他の条件が同じならば)銀行準備をシステム全体で減少させるのだ5

準備口座からの財務省による支出が、その口座へ直接振り込まれた税収と完全に等しい場合、準備に対するそれぞれ相反する効果は、互いに相殺されることになる。つまり、政府が日々の税収と政府支出のタイミングを見計らって均衡予算を組んでいれば、銀行準備には何の影響もないのだ。しかし、図2が示すように、財務省保有の準備口座からの日々の収支は、滅多に釣り合うことがない。事実、60億ドル近くの差が出ることもある。

図2 連邦準備口座への(からの)日々のフロー、1998年3月(租税公債口座と、負債管理への[からの]純移転) 出典:1日ごとの財務省の決算報告, http://fedbbs.access,gpo.gov/dailys.htm

したがって、準備の注入と引き落としが同時に行われることで「準備効果」が減衰しても、政府支出と課税が完全に相殺されることはないのだ。より均一なパターンが確立し得るとしても、アーヴィング・アウアーバッハが認識したように、「総受領額や、徴税人が収入を回収できる速度を、完全な正確さで事前に決定する方法はない」(Auerbach, 1963, p.349)ので、いくつかの不一致は継続するだろう。このように、同時並行的な政府支出と課税が準備に与える影響はある程度相殺されるが、財務省による日々の現金業務による準備効果は、特に「財務省保有の準備残高を通じて直ちに接続される場合」(Auerbach, 1963, p.333)、依然として重大なものになるだろう。

2.2 「準備効果」の重要性

財務省の収支を完璧に調整することができない、という事実は、銀行準備の水準、ひいては貨幣市場に、深刻な影響を与える。銀行は法律で、預金の一部に相応して準備を保有することが義務付けられているが、この金額を超えて保有している準備には利息が付かないため、通常は多額の超過準備を保有しないことが好まれている。納税の清算は、準備残高を希望・要求されているよりも少なくする一方で、政府支出は、準備残高を希望・要求されているよりも多くすることになる。

フェデラル・ファンド市場は、超過準備を解消したい、あるいは不足分を補うために必要な準備を獲得したいと考えている銀行にとって、「第一の市場」である(Poole, 1987, p. 10)。システム内に準備が創造されると、多くの銀行はフェデラル・ファンド市場で準備を貸し出そうとする。問題は、当然ながら、その市場での準備の貸出では、(当初は準備が「均衡」していた)銀行システムが超過準備から脱却できないということだ。加えて、システムが超過準備で一杯になると、銀行はこれらの資金の入札者がいないことに気付き、フェデラル・ファンド・レートは0%まで低下する可能性がある。

同様に、納税が清算されると、(当初は準備が「均衡」していた)銀行システムは、必要な準備(や希望する準備)が不足することになる。銀行は必要な準備をその市場で調達することになるが、全ての銀行が市場で資金を借りて均衡準備ポジションに戻ることはできないため、システム全体での準備の不足は続くことになる。つまり、システム全体で余剰があった時のようにシステム全体の不足をその市場6で補うことなどできないのだ。それを行おうとすると、単にフェデラル・ファンド金利がどんどん高くなっていくだけだ。

重要なのは、銀行準備水準の変化によって影響を受ける金利は、フェデラル・ファンド金利だけではないということだ(Poole, 1987, p.11)。すなわち、銀行が希望する準備額を保有する際、政府支出や課税といった財務省の業務によって準備が追加・排出された後、銀行はその変化に対応するためにまずフェデラル・ファンド市場に目を向ける。そこでの金利は上下し、その他の短期金利が影響を受ける。中には自らの準備の不足を解消することに成功する銀行もあるだろうが、銀行システム全体で不足を解消することはできないだろう。政府が準備を追加・排出することによってのみ、システム全体の不均衡を解消できるのだ。フェデラル・ファンド市場を通じてシステム全体の準備の「不均衡」を解消しようとする試みは、他の多くの金利に影響を与える可能性があるので、財務省の業務が銀行の準備ポジションに与える悪影響を緩和するために、これまで様々な方法が開発されてきた。

3.なぜPIIGSは苦境に立たされているのか

前述の議論では、あらゆる支出と受領が直ちに財務省保有の準備口座に入金・引き落としとして反映されると仮定して、政府支出と課税が銀行準備に与える影響を検討した。これにより、それぞれの業務が銀行準備水準に与える影響を浮き彫りにできたが、今日の現実に描くことはできなかった。このような状況が実際に起これば、銀行の準備ポジションの絶え間ない混乱と、それに伴うフェデラル・ファンド市場の慢性的な混乱が発生することになるだろう。これらの結果は政策的に極めて望ましくないため、これらの慢性的かつ予測不可能な「準備効果」を緩和するために、重要な戦略がいくつか開発されてきた。では、これらの方法の検討に移るとしよう。

3.1 課税の使用と貸借関係

財務省の業務の破壊的な性質は、「独立国庫制度7」の下で認識され、最終的には、一般預託機関と特別預託機関8、つまり、政府資金を保管することができる民間銀行の利用に繋がった。これは、「準備効果」を緩和するために開発された最初の重要な戦略である。ランレットが認識していたように、「財務省の活動による一時的な流入と継続的な流出の性質」に起因する準備効果は、特定の政府の受領を民間預託機関の租税公債(Tax and Loan, 以下「T&L」)口座に置くことで緩和される可能性がある(Ranlett, 1977, p. 226)。このようにして、政府支出に伴う準備の流出を一時的に防ぐことができた9。これらの機関を利用するメリットは直ぐに認識され、準備効果をさらに緩和するのに利用できることが明らかになると、その機能が拡大された。政府の財政運営の規模が大きくなるにつれ、特別預金は瞬く間に預託銀行の最重要分類となった。図3が示すように、現在、総連邦税収の3分の2強がT&L口座に直接入金されている。

図3 連邦税の行き先(‘97年11月〜‘98年3月) 出典:1日ごとの財務省の決算報告, http://fedbbs.access.gpo.gov/dailys.htm

今日、T&L口座は、日々発生する、政府の収入フローと支出フローの間の大きな乖離(図 2 に示す)から、貨幣市場を守るために使用される最も重要な装置となっている。

3.2 財務省保有の準備口座の運営

ほとんど全ての政府支出は準備口座宛てで小切手を書くことになるため、T&L口座にある事実上全ての資金は必ず最終的に準備銀行へ移される10。財務省保有の準備口座の純変動のみが(他の条件が同じならば)準備全体の水準に影響を与えるため、「財務省保有の準備口座残高を適切に一定水準に維持する」ことが,財務省の業務による「準備効果」を最小化するために用いられる第二の戦略である(前掲, p.364)。特に、財務省は「毎日50億ドルの準備預金残高を維持することを目標としている」(Manypenny, et. al, 1992, p. 728)。図4は、財務省が目標とする決算残高を維持するための努力が、どれだけ成功しているかを示している。

図4 財務省保有の準備口座の、1日ごとの決算残高(‘97年11月〜‘98年3月) 出典:1日ごとの財務省の決算報告, http://fedbbs.access.gpo.gov/dailys.htm

思い出してほしいのは、政府は日々、12の準備銀行と何千もの商業銀行の口座で資金を受け取っているが、ほぼ全ての政府支出が準備口座宛てで小切手を書くことで行われているということだ。準備銀行で50億ドルの残高を維持するには通常、T&L口座から財務省保有のFRB口座へ適切な金額を送金する必要がある。例えば、財務省が50億ドルを準備口座で(今日)直接受け取り、過去に発行された60億ドルの小切手が支払いのために提示されると(今日)予想した場合、準備水準に正味の変化が生じないよう、10億ドルを財務省保有の準備口座に(今日)振り込む必要がある。

財務省は、T&L口座に「コール」を行うことにより、予想される不足分を補うために資金を移動する。ほとんどの場合、これらの口座から資金を移動する前に事前通知が与えられる11。「逆コール」や「直接投資」も可能だ。これは、財務省の決算準備残高が50億ドルを大幅に超える、と予想される場合に必要となる12。財務省は、決算残高が過剰なことに起因する準備の流出を回避するために、過剰資金の一部または全部を手形業務銀行のT&L口座に預ける場合もある13。予想される不足分を補うための「コール」であるにせよ、過剰な決済残高を防ぐための直接投資(または以前のコールの取り消し)であるにせよ、移転額は財務省保有の準備残高を可能な限り安定的に維持することを目的としている。これを達成するために、財務省はFRBの協力に頼っている。

3.3 FRBとの調整

財務省の準備残高は「準備水準における不確実性の最大の原因となることが多い」(Meulendyke, 1989, p.159)ので、FRBは、財務省が目標とする決算残高を達成するのを支援することに、強い関心を持つ。実際、FRBが金融政策を成功させられるかどうか(特に目標フェデラル・ファンド金利を達成できるかどうか)は、財務省が目標決算残高を達成できるかどうかに大きく依存する。財務省とFRBの間の日常的な繋がりは、「所望の目的を達成するために準備当局を支援する多くの機会」を財務省へ提供する(Auerbach, 1963, p.328)。

残念ながら財務省は、FRBの協力を得ても、日々の支出による効果をT&Lコールと直接投資によって完全に相殺することはできない。事実、表1が示すように、財務省の月平均決算残高は、かの50億ドルの目標とは大きく乖離し得る。

表1 出典:1日ごとの財務省の決算報告, http://fedbbs.access.gpo.gov/dailys.htm

これもまた、受領や支出の規模・タイミングに関わる、本質的な不確実性の結果である。つまり、財務省の準備口座に出入りする金額は、事前に正確には知り得ないため、T&L口座への移転は通常、これらの口座における不足分を(正確には)相殺できない。したがって、図5に認められるように、1日ごとの財務省決算残高の変化は、非ゼロだと予想される。にもかかわらず、その変動はゼロ近傍で微細に変動する傾向があり、最も大幅な乖離をもたらすのは四半期ごとの納税である。

図5 1日ごとの決算残高の変動(‘97年11月〜‘98年3月) 出典:1日ごとの財務省の決算報告, http://fedbbs.access.gpo.gov/dailys.htm

まとめると、財務省の業務については、重要なポイントが3つある。第一に、財務省は、現金業務の破壊的性質を認識し、民間預託機関で口座残高を維持することで対応した。第二に、財務省は、これらの口座を活用し、(収入と支出それぞれのフローを調整するために)T&Lコールや直接投資を行い準備口座残高の純変動を最小化させることで、業務の準備効果を低下させる。そして第三に、財務省とFRBは、財務省の準備残高を管理する上で、かなり高度な調和を目指して協力する。

4.財務省の業務を調整するための国債売却

これまでのところ、財務省が、業務上の準備効果を最小化するために、課税フローと支出フローを均衡させようとすることだけを取り上げてきた。したがって我々の議論の中には、政府は予算を均衡させようとするという観念が暗に含まれていたのだ。では、均衡しない場合はどうするのか。つまり、政府が財政赤字を出したらどうするのか。国債の売却は、財務省によるキャッシュフローの出し入れ、ひいては準備効果にどのような影響を与えるのだろうか。国債売却の準備効果を判断するためには、3つのシナリオを分析する必要があるのだが、重要なのは、誰がどのように購入するのかということだ。

第一に、T&L口座は、税収だけでなく、国債売却収入も実際には受け取っていると認識しなければならない。T&L口座を持つ商業銀行(またはこれらの銀行の顧客)が国債を購入する場合、購入する銀行や銀行システム全体の持つ準備が直ちに減少しない場合もある。財務省が新規国債の入札を募る際に、少なくとも一部の国債を、T&L口座への振込によって購入させる場合、特別預託機関は(米国財務省名義の口座へ)振り込むことで国債を獲得できる。したがってこれらの預託機関は、新発国債を購入しても準備を失わない14。同様に、特別預託機関の顧客が新発国債を購入しても、「国債の一部(または全部)はT&L口座振込でしか購入できない」と財務省が指定している限り、準備は影響を受けない。例えば、特別預託機関の顧客が国債を購入した場合、財務省は、その顧客から代金として受け取った小切手を、小切手を振り出した銀行に再預金する。銀行はその後、買い手の口座の引き落とす一方、これを相殺するように、財務省のT&L口座に入金する。すなわち、特別預託機関への国債売却のように、これらの機関の顧客への国債売却は、準備を減少させずに成立するのだ。

第二の方法は、T&L口座への入金を伴わない、新発政府債務の民間購入だ。その債券がT&L振込で購入するよう法律で定められてない場合や、いわゆる「手形業務」銀行(またはその顧客)がそれを購入しない場合、国債の購入は直ちに銀行と銀行システムの両方から準備を流出させることになる。というのも、国債の売却代金は、「銀行システム内」に留まるのではなく、財務省の準備口座のいずれかに直接入金されるからだ。このように国債が売却されると、財務省の準備口座に入金がなされ、図1の右の角括弧を増加する一方、銀行の準備口座が減少する。すなわち、T&L振込が選択肢にない場合、米国政府債券の購入を希望する銀行は、準備を振り込むことでこれを購入することになる。したがって、T&L振込で支払える対象とならない新発国債を民間が購入する場合、銀行システムで準備が減少することになる。

最後に、FRBへの財務省債券の売却を検討しなければならない。FRBが財務省から直接的に新発国債を購入しても、銀行の準備は変化しない。これは、図1で明らかなように、右の角括弧(米国財務省の準備残高)と左の角括弧(米国債残高)の両方が同額ずつ増加し、総準備残高は影響を受けないからである。さらに、財務省とFRBの間で対になっている資産と負債を単純に相殺し(Tobin, 1998)、両者のバランスシートを合算することで、政府のバランスシートを連結して考えることができるので、財務省からFRBへの国債売却は、単に政府内だけでの会計処理であり、自己構築された支出可能な残高を政府に提供するだけだ。自主的な制約により、財務省がこのようにして預金の全てを創造することはできないかもしれないが、その能力に実質的な制限はない15

今日、財務省は明らかに新発国債の売却方法について選択肢を持っている。例えば、政府が赤字支出を行う場合、財務省は国債を売却し、これをT&L振込で購入できるようにすることで、準備へ即座に影響が出るのを防ぐ16。財務省がこのように国債売却する場合、その国債は事前の調整ツールとして機能する。財務省はT&L口座からの資金移転の規模・タイミングを管理できるため、この種の国債売却は、財務省の赤字支出の結果として銀行システムに追加される準備額と同額、準備を銀行システムから(多かれ少なかれ)排出するのに役立つ17

しかし、財務省とFRBの協調性に問題がある場合(例えば、財務省とFRBが、財務省の準備口座宛てで振り出された小切手の額を過小評価している場合など)、超過準備を排出するために国債を売却することも考えられる。言い換えれば、不十分なT&Lコール(その結果、システム全体の準備が増加し、翌日物貸出金利が0%になる恐れがある)は、事後の調整ツールとしての国債売却を促す可能性がある。銀行は、超過準備を直ぐに排出するためにT&L口座へ入金して国債を購入することなどできないが、財務省(あるいはFRB)はこれを指定できる。

5.準備会計の含蓄

本節には2つの目的がある。一つ目は、政府支出の財源に税金や国債収入が使われているという通説を検証することだ。まず、第2節から第4節で分析した準備効果を参考にしながら、直観的にこの問題に取り組む。二つ目は、直観的な分析に納得できない人のために、税金や国債収入が政府支出を賄うことができるかどうかを検討することだ。この議論では、税金や国債収入が政府支出を賄えるのかを判断するために、基本的な会計原則を準備会計の分析に適用することが求められる。

どちらの質問も一見、理屈に合わないように思える。確かに、税収や国債収入が財務省の(商業銀行やFRBにおける)口座に入金され、政府が財務省の準備口座宛てで小切手を書いて支出していることに、疑いの余地はない。さらに、資金はT&L口座から財務省の準備口座に送金され、予想される口座の不足分を補うために使われているので、政府が支出のためにこの資金を使っているように見えるのは確かである。間違いなく、この明らかな相互依存性は、課税や国債売却を資金調達業務として扱う根拠となってしまっている。だが、(赤字)支出と課税・国債売却の調整は必要なものなのか、それとも、より現実的な運用を覆い隠しているものなのか。

それでは、その調整の議論、つまり、政府が支出を賄うためには税金や民間からの借入が必要である、という主張を検証してみよう。この問題は、第2節から第4節で導き出された以下の重要な結論を用いて、実践的にアプローチすることができる。

  • 1.民間部門が納税や国債購入をすると、財務省の準備口座にそれによる収入が入るので、銀行システムの準備が減少する。
  • 2.政府支出は、銀行システム全体の総準備額を増加させる。
  • 3.銀行準備の総額が変化すると、フェデラル・ファンド金利やその他の短期金利が変化する。
  • 4.財務省は、支出、課税、国債売却を調整して決算準備口座残高を管理する。
  • 5.自発的な制約がない限り、財務省は、国債をFRBに直接売却することで、支出残高の全てを創造できる。

以上を踏まえると、政府が単独で創造できる貨幣(通貨や銀行準備)を民間から取ってくる必要があるのか、疑問に思えてくる。政府が欲しがっているのは貨幣ではなく、橋・軍隊・人工衛星などであり、政府貨幣と引き換えにそれらを提供するよう国民に働きかけて、これらを獲得していると考える方が妥当なように思える。つまり、政府への納税義務を清算するために貨幣を必要としているのは、政府ではなく、国民・市民なのだ。

事実、課税と支出のプロセス全体は、論理の問題として、まず最初に政府が新たな政府貨幣を創造(及び支出)するところから始まるはずなのだ。そもそも、政府が国民に貨幣を渡し、その貨幣を納税で使用できることを認める前段階では、国民は政府貨幣(HPM)を使った納税義務の清算などできない。言い換えれば、政府が新たに貨幣を創造・支出して財・サービスを購入するには、最初に、納税手段となる貨幣を定め、その貨幣を国民へ供給しなければならない。すなわち、課税は、政府が現実の資源を私的領域から公的領域に向ける手段として考えられる。この理論を受け入れるならば、課税は政府貨幣の需要を生み出すために行われるのであって、政府支出を「賄う」ために行われるのではないと分かる。

同様に、政府が現在の税収を超えて支出するのに、国債を発行する必要はない。というのも、繰り返しになるが、政府は相対するFRBの資産と財務省の負債(例:財務省債券)を相殺することで、内部(統合バランスシート上)で独自の支出可能な残高を常に作ることができるからだ。国債売却がない場合、赤字支出は総銀行準備を純増させることになる。国債は、超過準備を排出し、赤字支出を中和するために使われる。国債は、民間部門にとって、無利子の政府通貨に代わる収益性のある資産となり、かつ、政府が翌日物貸出金利をプラスに維持しながら、税収以上に支出することを可能にする。

このように、財務省の業務を直観的に分析することは、政府支出と課税・国債売却を調整する実際の動機を示唆する。具体的には、課税・支出・国債売却によって準備効果が生まれるので、政府はこれらの業務を連携させ、銀行の準備ポジション、ひいては短期金利への影響を緩和する。この相互依存性は、課税や国債が「資金調達」の役割を果たすという現実の証拠ではない。それどころか、課税は政府貨幣(HPM)の需要を生み出す手段と捉えることができる。国債とは、赤字支出が原因で銀行システムに超過準備が発生することを防ぎ、翌日物貸出金利をプラスで維持するためのものだ。したがって、課税も国債販売も、資金調達のための業務として捉える必要がない。

多くの読者は、先ほど提示した直観的な分析に基づいた、課税や国債販売を資金調達業務として扱うのをやめるべきだという考えに、納得できないままでいることだろう。幸いなことに、課税や国債売却を資金調達業務と見做すべきでないと主張するための、より強力な方法がもう一つある。この議論は技術的なものである。FRB発行紙幣(や準備)はFRBのバランスシート上で負債として計上されており、これらの負債は政府へ支払いとして提供された時に消滅すると理解する必要がある。また、通貨や準備が政府に戻って来ると、政府の負債が減り、HPMが破壊されることも認識しなければならない。

これらの手形の消滅は、民間において手形が履行された後、消滅するのと何ら変わらない。言い換えれば、ある個人がローンを組む際、銀行に手形を発行するのだが、その人は、その手形を「履行」(すなわちローンを返済)したら、そのローン債務(負債)をバランスシートから消すことで「破壊」できる。同じく、政府は、自身が創造した貨幣(HPM)を支払管理局で受け入れるという約束を履行すれば、これらの負債をバランスシートから消すことができる。

よって、要求払預金が納税に使われると銀行貨幣(M1)が破壊されるのに対し、政府貨幣(HPM)は財務省の準備口座に入ると破壊される。以上のことを踏まえると、徴税や国債売却で集めた資金では政府支出を賄えない、と説得力を持って主張することができる。というのも、徴税や国債売却で得た収入を「手に入れる」ためには、政府は、集めた貨幣を破壊しなければならないからだ。疑いもなく、政府が収入として受け取った貨幣は破壊され、政府支出を賄えない。

納税や国債売却で受け取った貨幣を使わないとすれば、政府はどのようにして支出を賄っていると言うのか。政府は、マネーサプライやHPMの一部を構成しない口座宛てに小切手を書いて支払いを行うが、小切手を書くと、その支払われた資金がマネーサプライやHPMの一部(例えば、当座預金ならばM1、普通預金ならばM2)になる。したがって、納税が同額の貨幣を破壊する(直ちにM1を、その税収が財務省の準備口座に入るとHPMを破壊する)一方、この口座からの支出が同額の新たな貨幣(銀行貨幣とHPMの両方)を生み出すことは明らかである。現代の政府は、新たな貨幣(HPM)を直接生み出すことで、あらゆる支出を賄っているのだ。

6.要約と結語

政府(FRBと財務省)が業務上の「準備効果」を無視するならば、T&L口座の使い道はほとんどないだろう。単純に支出可能な預金を(連結バランスシート上で)独自に作り、税収の規模やタイミングを気にせずに(準備を追加し、貨幣を創造することで)支出できる。だが、このような行動をとると、それまでは準備ポジションに満足していた銀行システムが、維持したいと考えていたよりも大幅に過剰な準備を抱えたままになることが良くある。超過準備が潤沢にある銀行システムでは、これらの資金の入札者が少なく、翌日物貸出金利はゼロに向かって低下することになる。納税がされれば、超過準備の一部は流出する。それでも、フェデラル・ファンド金利は長期的には0%で止まる可能性がある。

フェデラル・ファンド金利をプラスにするためには、FRBか財務省のどちらかが国債を売却して超過準備を排出せざるを得えない18。銀行は、無利子の政府貨幣を過剰に保有することを望まないため、無利子準備を利付国債に交換するのをこの上なく好むだろう。国債は、(目標)フェデラル・ファンド金利がプラスになるよう、超過準備が十分排出されるまで売却されなければならない。このように、準備が追加された後に排出するプロセスが働くのだが、これは、準備水準に大きなばらつきが生じ、その結果、フェデラル・ファンド市場に大きな混乱が生じることを伴う。これらの業務の準備効果を無視すれば望ましくない効果が生じることを承知の上で、財務省は業務を調整し、準備口座から支出する時にT&L口座から資金を移動(準備の流出)させることを選択する。

税金は、HPM(不換紙幣システムにおける現金や小切手など)を使って支払われる場合、政府支出を賄うのに必要なものでもないし、その能力も持たない。政府が税収を「手に入れる」ためには、これを財務省の準備口座に入れなければならない。そうすると、銀行システムは、(直ちに、または財務省がT&L口座からの収入を準備口座に移すことで)希望する額や必要な額より少ない準備額を抱えることになり、同額のHPMが破壊される。同様に、財務省が債券を発行すると、(T&L振込が認められない場合は直ちに、またはT&L口座から収入が振り込まれる場合はラグがあって)準備は流出し、HPMが破壊される。これに対して、財務省の準備口座からの政府支出は、準備を注入し、同額の新たな貨幣(M1・M2などやHPM)を生み出す。

政府の受領と支出(のタイミングと金額)を完璧に均衡させるのは不可能だ。財務省とFRBができる最善の方法は、財務省の準備口座で予想される推定変化額を比較し、おおよそ的確な金額をT&L口座に入金するか、そこから送金することである。T&L「コール」の過不足によるエラーは日常茶飯事だ。「同日コール」や「直接投資」は、当局がこれらのエラーに対応できるようにするためのものだが、常に選択肢として挙がるわけではない。

財務省がこれらのエラーを自力で修正できない場合、FRBは、財務省決算残高の変動を相殺しなければならない場合がある。フェデラル・ファンド金利を目標金利から遠ざけてしまうほどエラーが大きい場合、そうする必要がある。実際、既に述べたように、財務省の準備残高は、金融政策立案者が直面する「不確実性の最大の源泉」である場合が多い(Meulendyke, 1989, p.159)。FRBの相殺する機関としての役割は、目標フェデラル・ファンドレートを守る義務によって、本質的に強制されている。事実、プールはさらに踏み込んで、FRBは通常、フェデラル・ファンド金利を許容範囲内に維持するために、他のいかなる目標も放棄すると述べている(Poole, 1975)。そして、金融政策は主に翌日物貸出金利の維持を目標としているため、準備の追加・排出はほとんど裁量的に決定できない。これとは対照的に財政政策は、HPMの供給量の決定に関わる。さらには、課税も国債売却も銀行システムから準備を排出させるが、どちらも政府支出のための資金調達をするわけではない。事実、どちらも(最終的には)HPMの破壊に繋がる。

準備会計を分析すると、政府支出は全てHPMの直接創出によって賄われており、国債売却や課税は準備の流出やHPMの破壊のための手段に過ぎないことが明らかになった。そして、翌日物貸出金利がゼロになるのを防ぐためには、準備を排出する手段をその中から選択することになる。我々はこれらの知見を踏まえ、金融政策・財政政策の定義や、課税・国債売却を「資金調達」業務として扱うことを、見直す時期に来ているのではないだろうか。

出典

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注釈

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1. 政府貨幣とは、ハイパワードマネー(high-powered money, HPM)のことであり、銀行が連邦準備銀行に持つ預金残高と、通貨残高の合計だと定義されている。必要に応じて、「マネーサプライ」(M1、M2など)の変化は、HPMの変化と区別される。

2. 準備要求は一般的に、現金残高と、当該地区の連邦準備銀行での預金口座残高の合計で満たされるが、預託機関が、連邦住宅貸付銀行、全国信用組合管理機構の中央流動性機関、コルレス銀行で保有する口座も合算されることがある。預託機関はこれらの準備要求を日常的に満たす必要はない。まず2週間の「準備期間」(水曜日に終了)が設けられており、その期間内に彼らは、1日の平均準備総額を、直近の月曜日までの2週間に保有していた日平均取引口座の要求された割合に維持しなければならない。すなわちこれは、同時準備会計(contemporaneous reserve accounting, CRA)システムと呼ばれているものの、実際には2日遅れである。つまり、銀行は常時、既知の不足を解消するのに必要な引当金を(事後的に)取得するために、2日間(火曜と水曜)の猶予が与えられている。銀行によっては超過準備の保有を選択する場合もあるが、利益最大化を狙う銀行は準備を削減するだろう。銀行は、遊休資金を好まない限り、超過準備を貸付金や有価証券といった「収益資産」に変換するだろう。

3. Ranlett, 1977, pp.19l-193 を参照されたい。

4. もちろん、財務省が連邦準備銀行だけでなく、何千もの商業銀行やその他の預託機関の口座を保有していることも事実である。ただ、これを考慮するとかなり状況が変わるため、次の節で取り上げられることにする。

5. 特筆すべきは、そもそも課税に先立って、政府支出がなされていなければならないということだ。つまり、納税は、銀行準備が創造されない限り、財務省保有の準備口座(右の角括弧)を増やすことができず、銀行準備を減らしてしまうのだ。その上、FRBや財務省は必ず、これらの準備を供給することができる唯一の機関であり、これらの準備の原初の供給源である。これについては第5節で取り上げる。

6. 銀行システム全体で準備が不足している場合、銀行は預金を減らすことで不足を解消しようとすることが考えられる。ある銀行がこのプロセス(ノンバンクの一般人へ、米国債を売却したり、借換なしのローン返済を求めたりすること)を始めれば、(全銀行がこれに追随すると仮定すると)預金の乗数的収縮を招くことになる。これは最終的に銀行システムの準備の不足を解消することになるが(銀行が追加の準備金を取得する必要はない)、このプロセスには時間がかかり、「均衡」が回復するまで金利を混乱させることになる。したがって、不足分は通常、銀行システムがより多くの準備を獲得することで解消されるのであって、準備が「裏付け」なければいけない預金を減らしても何の解決にもならない。

7. 独立国庫制度は、連邦準備制度が創設されるずっと前から存在していた。1840年に設立され、翌年廃止、そしてまた1846年に再設立され、1921年に再廃止された。

8. 一般預託機関は「送金業務銀行」、特別預託機関は「手形業務銀行」と呼ばれている。どちらもT&L口座を持つ預託機関だが、「送金業務銀行」は、前身の一般預託機関と同様、資金を受け取った翌日にT&L口座残高を準備銀行に送金しなければならない。1978年には「手形業務銀行」と呼ばれる銀行のおかげで、1日分の納税額をいつものT&L口座(税収はここで無利子で1日だけ退蔵される)から有利子の「手形口座」に移して積み立てることができるようになった。これらの税収は、財務省が準備銀行に送金するためにそれらを呼び出さない限り、 事前に承認された限界まで「手形口座」に置いておくことができた(Manypenny and Bermudez, 1992, p, 728)。

9. この場合、「貨幣の供給」とHPMを区別する必要がある。税収をT&L口座に入れた場合、HPM(銀行準備・通貨残高)に影響はない。反面、「マネーサプライ」は違う。資金が、M1の一部である要求払預金から、マネーサプライの標準的指標(M1やM2など)の一部ではないT&L口座(またはFRBの財務省の口座)に移されると、「マネーサプライ」は減少する。

10. 政府がこのようにするのは、政府が再び支出するためには税収が必要だから、というわけではなく、課税と支出の調整を選択しているからである。これについては最後の節で取り上げる。

11. 特別預金(または手形業務銀行)は、A銀行、B銀行、C銀行の3種類に分類される。A銀行やB銀行は一般的に小規模な機関であり、C銀行は一般的に大規模である。T&Lコールは、前日の各T&L口座の帳簿残高のうち、わずかな額だけ行われる。A銀行とB銀行に行われる「コール」は通常、C銀行で行われるコールに比べてリードタイムが長く、当日または翌日にコールされる銀行は普通、後者のみだ。

12. 財務省の決算準備残高は、2つの原因から、目標水準を上回る可能性がある。第一に、以前に行われたT&Lコールが大き過ぎた可能性が挙げられる。この場合、準備口座からの支出額は、その口座へ直接入金された額と、T&Lからの「コール」額との合計よりも少ない。 第二に、政府への支払いと準備口座への直接入金が、これらの口座からの支払い額を超えている可能性が挙げられる。例えば、準備口座へ四半期ごとに直接送金される納税額が、政府支出を補うのに十分な額に達している月に、このようなことが起こる可能性がある。

13. いかなる場合でも、財務省が過剰資金を直接投資する試みに成功することはない。一部の手形業務銀行は担保要件を満たさず、追加のT&L資金の受取人としては不適格だろう。加えて、財務省保有の準備口座のように、T&L口座は、四半期ごとの納税が並外れて重くなると増加するかもしれない。銀行はT&L口座の利息を支払わなければならないため、喜んで受け入れるT&L残高の規模に制限を設けている。直接投資が選択肢にない場合、財務省は、準備残高を引き下げる試みで、以前に予定されていたコールを取り消そうとすることができる。

14. あなたは、T&L残高の増加に伴い、追加の準備が必要なのではないかと疑問に思うかもしれない。だがその答えは「否」だ。1978年11月の利付手形口座の開設以来、特別預託機関は、T&L預金に相応して準備を保有する必要がない。

15. FRBは、一時期、財務省から直接国債を購入することを禁じられていた。だが第二次世界大戦中に変更され、FRBは財務省から50億ドルまで国債を直接購入することが認められた。それ以来、何度も限度額が引き上げられ、今日に至る。

16. ボールディングは、赤字支出が最も一般的にこの慣行を伴うと指摘している(Boulding, 1966)。

17. 政府は前もって課税や国債売却を行わずに赤字支出できるが、政府支出が税収を上回ると、銀行システムに超過準備が残ることには注意すべきだ。したがって財務省は、赤字支出を中和するために国債を使用することを好み、準備口座から支出する前に国債を特別預託機関に売却する(そしてT&L振込を許す)。この時、この国債のおかげで、政府はフェデラル・ファンド金利を守ることができる。

18. 注意すべきは、毎年政府が均衡予算を運営していたとしても国債を売却しなければならないということだ。なぜなら、均衡予算は、財務省の日常的業務の「準備効果」を排除できないからだ。すなわち、財務省の日々の決算残高の変動は、フェデラル・ファンド金利を目標から遠ざける恐れのあり、毎年均衡予算であっても国債売却を誘発することになる。